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しっぽ物語 6.豆の上に寝たお姫さま

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 苛立ちすらも勃起へと変わりそうな気配にうんざりして、ズボンの中にしまいこむ。そう言えば。今まで意識していなかったが、簡易の寝間着は薄く、身体の線を露にする。あのすべすべした脚を見て、欲情する可能性が万に一つもないことはNも理解していたが、意識してしまうことそのものが、嫌悪感を掻きたてる。
「今渡してきました」
 乱暴に開け放たれた扉が、声をかける。横目で窺えば、男が喋りかける相手はもちろんNではなく、病院で使用するのを禁止されているはずの携帯電話だった。
「言われたとおり花を。ええ、二番目に高い奴ですよ。一番は今度、おいでになるときに」
 男はこちらを見ることすらせず、ひびの入った鏡にネクタイを映しこみ、指先で神経質な微調整を続けていた。
「ああ、とんだ女ですよ」
 そう、とんだ女だ。思い浮かんだ言葉を慌てて打ち消すため、Nは男と負けず劣らずの勢いで、扉を押し開けた。



 彼女の病室に戻る前に一服しようとポケットに手を突っ込んだ瞬間、その女と眼があった。あったとは言っても、相手の顔は半分以上が包帯で覆われていたから、完全にとは行かなかったが。それでもその姿態は、Nの手からライターを取りこぼさせるのに十分なインパクトを持っていた。
 ベッドの上で仰向けに寝そべり、立てた膝を大きく割り開いているせいで、寝間着はももの付け根まで捲れあがっている。下着は身につけていなかった。非常に肉付きのいい下半身が、女にしか分からないリズムに乗ってくねるたび、剥き出しのまろみを帯びた尻たぶが潰れて形を変えるということで強調される。はちきれんばかりの太腿が、小刻みに揺れる。こちらからも時々踏ん張る爪先の震えは、明らかに何らかの感情を露骨に表現していた。
 短く刈られた金髪を枕に擦りつけながら善がる女の姿を、Nは霞が掛かったような視界の中で見つめていた。がっしりとした骨をもつ膝がもどかしげに擦りあわされ、その間へ差し込まれた指は長く、先端が甘いとろみを持つ液体で濡れそぼっている。気がつけば、女のベッドの柵を握り締めることが出来る位置まで近付いていた。