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無口と饒舌と糸電話

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 何度目かわからない佐々木さんとの帰り道。今度の試験に備えてこれから一緒に勉強しないかと誘われた。勉強ということならば沈黙が続いたところで構わないだろうと了承する。そしてどこでという話から私の家に来てみたいと言われ戸惑う。

「駄目ならうちでもいいけど」
「駄目っていうか、私の部屋、エアコン無いから暑いんだよ。できれば佐々木さんの家でよろしく」
「うん。わかった。けど、エアコン無いと寝るとき大変だね」

 確かに。とそういう意味ではないとわかってはいても、毎度弥生と汗だくになることを思い出してしまい苦笑する。そういえばしばらく弥生は来ていない。代わりに佐々木さんと帰る機会が増えてきている。どうにか会話に慣れてきてはいるものの、やはり別れた後の倦怠感は無くならない。やはり一人か弥生と帰る方が気楽だ。けれど通りすがりに見かける弥生はいつも友人達に囲まれて笑っていて、私が声を掛ける隙など無い。私には次に弥生に声を掛けられる時を待つことしか出来ないのだ。あの部屋に弥生がやって来る時を待つことしか出来ないのだ。

 きっと、自室に佐々木さんを招くことに戸惑いを感じたのはエアコンのことがあるからだけではない。あそこは私と弥生にとって特別な空間だという意識があって、そこに人を入れるのが嫌なのだ。そんなことは誰にも、弥生にすら言えはしないけれど。

 勉強という名目のおかげで、会話に頭を捻る気苦労もあまりなく、沈黙も苦にはならなかったはずだったけれど、佐々木さんの家を出た頃にはいつもに増してぐったりしていた。勉強疲れというのもあるのだろうが、やはり、二人きりで長時間というのがいけなかった。せめて、どこかの店にでも入ればよかったと溜息を吐く。弥生とならばこんなに疲れることなどないのに。だらだらと歩き続け、気付けば、いつもの道に差し掛かっていた。

 最後に弥生とここを歩いたのはいつだったろうか。記憶を辿ってみたけれど、曖昧でよくわからなかった。それにしても、こんなにも間が開いたことがあっただろうか。最近は視線を感じた気がして振り向いても、交わる前に視線は逸らされ、後は友人の輪の中で笑う弥生がいるだけだ。楽しそうな弥生の様子を思い浮かべると、ますます足が重くなった。家までの道のりが酷く遠く思えた。

作品名:無口と饒舌と糸電話 作家名:新参者