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無口と饒舌と糸電話

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 部屋に入ると、いきなり弥生に押し倒され、私はなすがままだった。身長こそ私の方があるとは言え、筋力のかけらも無い私に弥生を押し留めることなど出来はしなかったし、たとえ出来たとしてもそうする理由など私には無かった。それに、弥生の表情だ。それを見てしまっては、抵抗する気など起きようはずも無かった。どうしてそんなに必死な顔をするのか、考える間もなく私は弥生からもたらされる快楽に溺れていった。

 何度目かの絶頂の後、弛緩した私以上に汗をかき、覆いかぶさる弥生が体の重みを私に預けてくる。それを受け止めると弥生の柔らかな体に私の骨が食い込んだ。互いの汗や何かで肌が張り付く。首筋に掛かる弥生の呼気は、部屋に充満する熱くじめじめとした空気よりも更に熱く湿っていて、少し肌が粟立つ。荒いその呼吸の合間に何か囁かれた気がして、疑問の声を出したけれど、弥生はただ、荒く息を吸い、そして吐くだけだった。いつもと様子の違う弥生にどうしたのか尋ねようかとも思ったけれど、答えは期待できない気がして、やめた。だから代わりにその背中を撫でた。呼吸するたびに上下する弥生の背中を、何度も何度も、撫でた。密着した体がべたついて、このまま私と弥生の肌が張り付いてしまえば良いのにとも思った。

 背中の汗が乾き始めた頃、弥生は起き上がり、いつものように笑って暑いと叫んだ。そして早々に下着を着けるとそのままの姿で扇風機の前に陣取り、風に当たっていた。扇風機に向かって無意味な声を発している弥生を見ていたら、幼い頃のことを思い出した。

 幼い頃、私達はよく糸電話で遊んだ。弥生の声が糸を伝わり耳に当てた紙コップから聞こえる。少し離れているはずの弥生に、まるで耳元で囁かれているかのようなその感覚が楽しくて、こそばゆくて、好きだった。ただそれだけが楽しくて、中身の無い掛け合いを繰り返す。

──もしもし、聞こえますか。
──もしもし、聞こえるよ。

 それだけで笑い合う。何度も何度も、繰り返し繰り返し、笑い合う。会話の中身なんてものはどうでも良かった。そうやって囁き合い、笑い合えることが楽しかった。

 今はもう、そんな遊びはしないけれど、くるくると話題を変える弥生とよくわからない相槌を打つ私との会話は相変わらず、中身なんて無い。それでも一緒にいることが楽しい。それはきっと、あの遊びと一緒なのだ。できることなら、弥生も同じように感じていたらいいのに。そう、思った。

作品名:無口と饒舌と糸電話 作家名:新参者