circulation【2話】橙色の夕日
こちらとしても、何がそんなに嬉しいんだか全く分からないが、もう嬉しいならいいや。という感じだ。
それが恥ずかしかったのか、スカイが顔を夕日に向ける。
夕日色の中では、顔が赤いのか、そうじゃないのかまではわからなかった。
その仕草に、まだクスクスと笑っていると、スカイがそっと呟いた。
「なあラズ、フォルテが楽しそうにしてるの見てたら、こっちまで楽しくなるよな」
「うん」
フォルテの砂糖菓子を思わせる甘い笑顔には、見ているこっちまでつられてしまう。
「それと同じで、ラズが幸せな顔してれば、俺も、フォルテも幸せになるんだぞ」
私……?
思い返してみれば、確かにフォルテはいつも、私の笑顔に笑顔を返してくれる。
スカイだってそうだ。
「……うん」
二人の笑顔の方が、甘くて、爽やかで、私の数倍素敵ではあるが、そのきっかけが私であるというなら、それは素直に嬉しいことだった。
「ま、だからさ、あんまり一人で考え込むなよ。悪いことは」
「うん……」
スカイが、ポンポンと私の背を撫でる。
……やっぱり、デュナと同じ仕草だ。
「それ、さっきデュナにもされた」
「え? あー……。確かに、俺も昔よくねーちゃんにされてたかも……」
スカイが背を撫でた左手を引き寄せて、考えている。
「デュナ譲りなんだね」
「うーん。そうだったのか……。確かに母さんはやらないなぁ……」
「おばさんは、ぎゅーってしてくれる感じだよね。どちらかというと」
「だなぁ」
私の預けられていたスカイの家では、デュナ達はもちろん、その両親にも良くしてもらっていた。
とはいえ、スカイ達の父であるクロスさんは、私の父と冒険に出てしまっていて、なかなか家に帰って来ないのだが……。
「父さんはやるかもしれないなー。ポンポンって、やりそうなイメージ」
「そうだね」
クロスさんとはあまり話したことがないけれど、スカイをさらに凛々しく紳士にしたような、こう、いかにも聖騎士然としたパラディンだった。
以前はお城に仕えていたのだと聞いた事がある。
「さーて、下行くか!」
スカイの明るい声に振り返る。
戸を開けて待つスカイに促されて、私はテラスを後にした。
沢山の本の香りに迎え入れられて、後ろを見ると、
夕日は遠い山の輪郭をうっすらと縁取って、その向こうに姿を隠すところだった。
作品名:circulation【2話】橙色の夕日 作家名:弓屋 晶都