通話はご遠慮ください
私の声に2人は顔をひきつらせながらも反応した。
「はい。」
「お友達に、電話をやめていただけるようお願いできますか?」
何を言っているのだ、この女は。
2人の顔からは困惑が見て取れた。
気まずい間ができる。
2人のうち、一瞬早くそれと察した女性が裏返りかけた声で応じた。
「はい、伝えます。」
「それでは。」
一礼して私は改札に向かった。
言ってやった、という気持ちと、何か苦いものを飲まされたような居心地の悪さが残った。
家路をたどる間、その気持ちが薄らぐことは一切なかった。
<了>
作品名:通話はご遠慮ください 作家名:春田 賀子