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 後日発見された彼女の日記はどうやら曖昧ながらも事の顛末が描かれていたそうだ。保護された青年は病院で療養中と別に教えてくれなくてもよかった情報とともにアキさんはその一部のコピーを持って来てくれた。彼女が人でも獣でもなくなる直前の日付はやはりひと月半前。家出する際に書いたものと見られる。
 私はお母さんの料理が大好きだ。おいしいものが大好きだ。
 私は一昨日、初めて誰かと食事をした。
 私は一昨日、初めて人を殴ってしまった。
 私は一昨日、人をうっかり殺してしまった。好き嫌いをしてはいけないと教えられていた私にとって、その人との食事は苦痛でしかなかった。今まで誰かと食べるということをしていなかった私は、好き嫌いをしてはいけないのが普通だと思っていたからだ。それなのにその人はおいしいものをたっぷりと残した。残した。残した! そんなに強く殴った覚えはない。でも、当たり所が悪かったんだ。その人は一切動かなくなって、私はとてもとてもとても慌てた。まだまだやりたいことがある。まだまだお母さんのおいしいものを食べた……人は美味しいのだろうか? そして、その人をたべてしまったのだ。
 私は昨日、気付いてしまった。人を殴ると言うのはいけない行為で、人をおいしそうと思ったり、食べたりすることはいけないことだ。でも、私はそれをした。つまり私はいけない子だ。常識はずれだ。常識から外れてしまった子はどうすればいいんだろう。気付いてしまった。いけない子はもう戻れないと言うことに。私は人を殴ってしまった、たべてしまった感触を憶えてしまった。――あの、嫌いなものを消す至福。私は後悔していない。
「結局、喰べることにとりつかれたってことですか」
「道を間違えなければああはならなかっただろうにな」
 同情なんて、しもしないが。
作品名: 作家名:asa