その声は消えない
「先生、サービスしすぎただけだと思いますよ」
「サービス?」
「私の回答、間違ってたところにも部分点ついてましたから。点数下がるの嫌だったから黙ってましたけど」
「そんなこと、ありました?」
「マザー・テレサの格言のところです」
マザー・テレサはすごく立派な行いをした修道女、らしい。
わりと最近の人らしく、絵で描かれた思想家が並ぶ教科書のなかで、カラー写真で映っていたところが印象的だった。大層な名前だなと思っていたら、どうやら本名ではないらしい。
『人間にとって一番悲しいことは ことです』
この空欄の部分を埋めよ、という問題で、彼女が生前に残した言葉らしいものの私にはさっぱりわからず、適当なことを書いてしまった。
「ああ、あの問題ですか。三笠さん、『答えがわからないこと』って書いたんでしたっけね」
「よく覚えてますね」
素直に驚くと同時に、すごく恥ずかしい。
テスト中のあのときは、たしかにその空欄を埋められないことが一大事だったのだ。だから、私の回答は正直な感想ではある。それだけにすごく恥ずかしい。
「あれくらい、サービスには入りませんよ。だから点数引いたりしません。だって、的外れってわけじゃありませんでしたから」
安曇先生の親切な言葉に、私はそうですかと言って頷くべきだったんだろう。なのに、出てきた言葉は全然別のものだった。
「本当に、そう思ってるんですか」