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その声は消えない

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 「プリントを冊子にするのって、けっこう大変なんですよ。なんせ、受け持つ生徒全員分ですから。この作業だって、三笠さんが手伝ってくれなかったら僕、また電気の消えた学校に居残ることになっちゃいますから」
 安曇先生はそう言って、頬をかいて照れくさそうに笑う。
 「なかなか怖いんですよ。夜の学校」
 もうすぐ定年を迎える年齢のわりに、安曇先生の仕草はなんだか可愛らしい。
 生徒にも丁寧な言葉で接したり、説教くさいことを言わないあたり、あまり先生という感じがしない。
 「気にしないでください。私、社会係だし、今は放課後暇なんです」
 会話しながらも、お互い作業はやめない。プリントの束を整えるとんとんという音と、ホチキスで留めるぱちんという音が規則的に教室の静けさを際立てる。
 「社会係というのは、やっぱり社会の授業を補佐する役割なんですか?」
 こうして定期的に先生が振ってくれる話題のおかげで沈黙が続かないことはありがたい。
 静かだと、どうしても意識は窓からの声に向いてしまう。それが嫌だった。
 「そうですね。国語係とか数学係とかもありますけど、やることはだいたい同じなんです」
 「雑用、ですか」
 安曇先生はきまり悪そうに笑って、白髪がわずかに残るだけの頭をぽりぽりと掻く。
 「すみませんね。高校生にとっての放課後は、僕の時間なんかよりもずっと貴重なものなのに」
 「いえ、私、本当に暇だからいいんです」
 小柄で皺だらけの安曇先生が肩を落とすと、本当に小さくなってしまう。なんだかすごく悪いことをしたみたいで、必要以上に慌ててしまう。
 「それに先生、いつもこうやってプリントを束にして配ってくれるの、とっても助かってるんです。テスト前とか、見直しやすいし」
 安曇先生の担当は倫理だ。
 いろんな思想家たちの持論をなぞっていくこの授業は、興味のない人からすれば、知らない人の恋バナみたいなものだ。はぁ、そうですかという感想しか出てこない。
 そんなわけだから、授業をそもそも聞かない人も多いし、安曇先生も居眠りや上の空状態を咎めるタイプではないのも加わって、テスト前にこのプリントだけを頼みの綱にしている人は多いのは本当だ。
 先生はそんな実態を知ってかしらずか、「テストねぇ」と小さくため息をついた。
 「三笠さんはどうでした?この前の倫理のテスト。あれ、僕が問題作ったんですけど、特別簡単に作ったつもりじゃなかったのに、平均高かったんですよ。もう少し難しくした方がいいんでしょうかねぇ」
 「この前のテストですか」
 私の点数は平均よりちょっとだけ上だったというだけの誇れるようなものじゃなかったものの、先生の疑問への心当たりはあった。

作品名:その声は消えない 作家名:やしろ