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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

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<番外編>イリュージョンショー



暗かった野外ステージが、ライトアップされた。
ざわざわとしていた観客が静まり返った。
誰もいないステージにドライアイスが流れている。

『私の名はザリアベル』

そんな声が会場に響き渡った。観客は息をのんで静かに聞いている。

『魔界の中でも恐れられている「大悪魔」である。』

その声とともに、ステージ中央に黒い服を着た男が突然姿を現した。
その男の目は紅く、両頬に2本ずつ長短の傷がある。
観客がどよめいた。

『君達は北条(きたじょう)圭一を知っているか?』

ザリアベルは口を開いていないが、ぶきみな声は続いている。
観客の子ども達が「知ってるー!」と、口々に答えた。

『この世界では、美しい歌声を聴かせるアイドルとして有名だそうだが、我々悪魔には不機嫌極まりない歌声だ。』

「なんでー?」と誰かが言った。一部の観客が笑っている。ザリアベルの声は、それを無視して続く。

『…その不機嫌極まりない歌声を持つ北条圭一を…この私が抹殺する。』

その時、ライトオペラを歌うスーツ姿の圭一が、ステージ後方にある高台に出現した。
観客からどよめきと拍手が起こった。
圭一が突然、ザリアベルに向かって言った。

「ザリアベルさん!!ここにいたんですか!」

圭一はそう言いながら、高台の前にある階段を下りた。
観客から笑いが起こっている。

『圭一君』

ザリアベルは口を開かないまま、圭一に振り返った。

『来るな、圭一君。』
「えー?どうしてですかー?」
『私は君を抹殺…』
「またまたー…」

圭一はそう言って、顔の前で手をひらひらと振って言った。

「ザリアベルさんって、いっつもそう言いながら、僕を助けてくれるじゃないですかー。」

ザリアベルは黙っている。
…これは、ザリアベルが嫌われないようにするために、浅野が考えた演出である。子ども好きなザリアベルが、嫌われないようにして欲しいという圭一の希望でもあった。

『圭一君、頼むから逃げてくれ。…これでは私の威厳が…』

このザリアベルの声に、観客から笑いが起こった。

「わかりましたよ。じゃぁその威厳に免じて…」

圭一はそう言うと姿を消した。観客がどよめく。
その時、浅野が高台に姿を現した。

「ザリアベル!こんなところにいたんだなっ!」

観客から大きな拍手が起こった。浅野は階段を駆け下りながら、ザリアベルを指差して言った。

「今日こそ、お前を捕まえて見せるからな!」
『浅野俊介…いつもいつもしつこい奴だな。』

ザリアベルはそう言うと、姿を消した。
浅野が観客を見渡して言った。

「観客の皆さま!ザリアベルがあなたの傍に現れるかも知れません!その時、腕なり足なりつかまえて「ザリアベルはここ!」と叫んで下さい!捕まえに行きますので!」

観客がどよめき始めた。皆顔を見合わせたり、辺りを見渡している。
その時、観客席から悲鳴が上がった。
浅野がその悲鳴が上がった方を見て「つかまえてっ!」と言った。
すると、今度は別の場所から悲鳴が上がった。
ザリアベルが瞬間移動したようだ。

「だから、つかまえててっ!」

浅野がそう言うと「つかまえたぞっ!」という声がした。

「OK!」

浅野はステージから姿を消した。観客がどよめいた。

……

「あれ?ここじゃなかった?」

観客席に出現した浅野はそう言って、辺りを見渡した。

「消えた!」

子どもの1人が言った。

「え?つかまえたのに消えたの!?」

浅野がそう言うと、周りの観客達がそれぞれ、驚いたような顔をしてうなずいている。

「残念!」

浅野がそう言いながら消えた。
どよめきが起こった。

「どうなってるんだろうなぁ…。」

1人の若い男性がそう言って首を傾げている。

……

浅野がステージに出現した。拍手が起こる。

「くそーザリアベルめ!…こうなりゃ俺も本気入れて、天使に変身だっ!」

浅野がそう言うと、観客から笑いが起こった。

浅野は両手を広げた。それと同時に背中から大きな羽が出現した。
観客の笑い声がどよめきに変わった。

浅野の髪が伸び銀髪に変わった。そして顔も鋭い目を持ったアルシェに変化した。
観客は浅野が天使「アルシェ」に変わっていく様を息をのんで見ている。

「私は天使の「アルシェ」だ!よろしくー!」

浅野ならぬ「アルシェ」はそう言って手を振った。観客はどよめきながらも拍手をしている。

「ザリアベル!俺は本気だぞ!出て来い!」

アルシェがそう言うと、今度はザリアベルが後方の高台に出現した。

『アルシェ…とうとう出てきたか。』

アルシェはその声に振り返った。

「ザリアベル!」

アルシェがそう言い、高台に瞬間移動するとザリアベルが消えた。

「くそっ!どこだっ!」

アルシェが観客席を見渡した。

……

ザリアベルが観客席に出現した。
周囲にいる観客が「わーっ!」と嬉しそうに声を上げる。

「イベントのおじちゃん!」

女児がそう言って、ザリアベルに手を差し出した。
ザリアベルはその手をそっと握り、女児の前に片膝をついた。隣にいる母親が驚いている。
ザリアベルが女児に言った。

「イベントの意味がわかったかい?」
「うん!こういうやつのこと。」
「そうだ。楽しいか?」
「うん!早く逃げて!」
「ああ。」

ザリアベルはそう微笑むと、姿を消した。
すると、すぐにアルシェが現れた。
また周囲から奇声が上がった。

「ザリアベルはっ!?」

女児が「知らないっ!」と笑いながら答えた。

「うそぉ…しゃべってたじゃなーい、ここでー」
「ううん。」
「そおかぁ?おかしいなぁ…」

アルシェがそう言いながら頭を掻いていると、別の場所で奇声が上がっている。

「あっちかっ!」

アルシェはそう言うと、姿を消した。また驚いたようなどよめきが起こった。

……

2人はその後も瞬間移動を繰り返したが、アルシェがザリアベルに追いつくことはなかった。
ザリアベルがとうとう姿を消し、アルシェは息を切らしながらステージ中央に姿を現した。
どよめきと共に、拍手が起こる。

「くっそーっ!ザリアベル!どこだっ!?まだこの会場の中にいるんだろう!?」
『お前に捕まるわけにはいかない。私には、まだやることがあるからな。』

ザリアベルの声だけが、会場に響いた。観客から何故か拍手が起こった。
アルシェが辺りを見渡しながら言った。

「ちくしょう!大阪公演では、絶対に捕まえるからな!!」
『え?大阪公演?』

ザリアベルの声が素に戻っている。観客から笑い声が起こった。これは演出ではない。

『大阪公演なんて聞いてないぞ、圭一君。』
『ザリアベルさん!マイク入ったままですって…』
『ここだけじゃないのか?』
『あ、あの、その話は後で…』
『東京公演だけって…』

ザリアベルの声がそこで、ぶつっと切れた。観客が大笑いしている。
アルシェも思わず苦笑しながら、遠くを指さしながら言った。

「ザリアベル!!大阪公演も出てもらうからなっ!!」

その言葉と同時に、アルシェはステージから姿を消した。そしてステージのライトが落ちた。
観客の笑い声と拍手は続いている…。