小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ラベンダー
ラベンダー
novelistID. 16841
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

INDEX|13ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

すると圭一の目の前に木の杖で肩を叩いている、大きな羽を背負った白髪の青年がいた。

「あー…びっくりした。」

大きな羽を持った白髪の青年はそう言いながら、今度は反対側の肩を杖で叩いた。

「お父上はもう大丈夫だから。ほら。」
「!?」

その青年の言葉に、圭一は倒れている明良を見た。
明良は気を失ったままではあるが、背の傷は全くなくなっていた。
圭一は明良の口元に手をかざした。息をしている。

「!…父さん…!…父さん…良かった…」

圭一は明良の背に伏せて泣きながら言った。その時、圭一の腕にいたキャトルがくいっと顔を上げた。

「キャトルっ!」

圭一は、地面に降り立ったキャトルを抱き上げた。

「…良かった…ごめんよ…独りにして…」

キャトルは圭一の腕の中で「にゃあ」と嬉しそうに鳴いた。

「キャトルちゃーん!」

青年がそう言いながら手を差し出すと、キャトルは圭一の腕から青年の手に飛び移った。そして青年の腕を伝い、肩に乗った。

「キャトルちゃん、よく頑張ったねー!」

青年が、頬ずりをするキャトルに言った。キャトルが嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
青年は、まだ倒れて目を覚まさないアルシェとリュミエルに振り返ると、2人の体を交互に杖で突いた。

「こりゃっ!アルシェ!リュミエル!起きんかっ!!」

アルシェとリュミエルは、突かれてやっと目を覚まし、はっと青年を見上げた。

「大天使(アークエンジェル)様!」

アルシェとリュミエルは慌てて飛び起き、その場に正座をしてひれ伏した。

「こりゃこりゃ。わしは黄門様か。…悪い気はしないがの。」

青年はそう言って、杖をトンと床に突いた。

「まーたザリアベルが目の前に現れたから、びっくりしてさ。君たちは、どれだけあの人に迷惑をかけてるんだ?」
「申し訳ありません!!」
「こんなことじゃお前たちをなかなか昇格させてやれんぞ。昇格できなきゃ、力も増やせないということだからの。もうちっとがんばりなさいよ!」
「はい!」

アルシェとリュミエルは、またひれ伏した。
その時、ザリアベルが姿を現した。大天使はザリアベルに振り返って言った。

「おおザリアベル。圭一君のお父上はもう大丈夫じゃ。うちの部下が無能ですまんの。」
「いえ。…私も力が足りず、圭一君のVater(ファータ)をこんな目に…」

ザリアベルが目を伏せながら言った。

「あの…」

アルシェが、顔を上げて言った。

「ファータ…って、どういう意味ですか?」
「ドイツ語で「お父上」という意味じゃ、ばかたれ!」

ザリアベルではなく大天使がそう叱りつけた。ザリアベルが苦笑している。

(うちの大天使様って、ザリアベルより口悪い〜)

アルシェはそう思いながら、またひれ伏した。大天使は杖をトンと突いて言った。

「お前も、先進国の言葉くらいは話せるようになれ。少なくとも、世界中を周っている「イリュージョニスト」だろうがっ!」
「はい!」
「そうだ、ザリアベル…。」

大天使は思い出したように、ザリアベルに向いて言った。

「あなたもイリュージョンショーに出るんだっての。」
「え?…いや…それはやめようかと思っているんですが…」

ザリアベルがそう俯き加減に言った。大天使もだが、圭一とアルシェも驚いて顔を上げた。
圭一が「ザリアベルさん!…どうして…」と呟くように言った。
ザリアベルは圭一に向いて答えた。

「俺がショーにでたら、Vater(ファータ)のように、観客に迷惑をかけるかもしれないからな。」
「!…ザリアベルさん…」

圭一はうなだれた。アルシェもため息をつきながら俯いた。リュミエルは神妙な表情で一点を見つめたまま動かない。

「確かにそうだの。」

大天使が、杖で肩を叩きながら言った。

「じゃぁ、わしが結界を張ってやろう。」
「!?」

ザリアベルが目を見開いて、大天使を見た。圭一達も驚いた目で、ニコニコとしている大天使を見ている。

「大天使様!…大天使様が下界のためにそんなことして、智天使(ケルビム)様たちから怒られませんか?」
「怒らないんじゃないのー?皆、お前のショーを楽しみにしてるって言ってたし。」
「えっ!?」
「案外、天使達ってのは地位が高かろうが低かろうが、娯楽好きなのよ。…今までのお前のショーだって、どれだけ駄目出しされてるか。…今まで言わなかったけどね。」

アルシェは顔を赤くして、うつむいた。ザリアベルがまた苦笑した。

「それから、圭一君。」

大天使が杖を床について言った。

「はい!」

圭一は立ち上がった。

「君もがんばって歌の精進に努めなさい。君の歌は、今のところ悪魔達の動きを封じ込めることしかできないが、これからもっと鍛錬すれば、命を癒せる力を持つこともできるようになる。」
「!!」

圭一は目を見張った。

「本当ですか?」
「ああ、本当じゃ。鍛錬あるのみじゃ。がんばりなさい。」
「はい!」

圭一はそう答えて、頭を下げた。

「じゃ、わしはそろそろ帰ろうかの。」

大天使はそう言い、頭を下げるザリアベルに手を上げた。
キャトルが、大天使の肩から圭一の差し出した手に飛び乗った。

「じゃ、キャトルちゃんもバイバイねー!」

大天使がそう言うと、キャトルが「にゃあ」と鳴いた。
大天使は背を向けて姿を消した。
それと同時に、霧のかかっていた世界が副社長室に戻った。

……

明良はソファーで目を覚ました。

「父さん!」

息子の顔がぼんやりと見え、やがてはっきりとした。

「圭一!」

明良は飛び起き、圭一の腕を取った。

「…無事か?…ドラゴンは!?」

圭一は驚いて目を見開いた。アルシェが記憶を消したはずなのに、明良は覚えている。
明良は辺りを見渡して言った。

「キャトルは?…それから…天使達はどうなった!?」
「父さん!…大丈夫ですか?」

圭一が涙ぐみながら言った。

「何もありませんよ。キャトルもほら…」

圭一がそう言うと、キャトルが「にゃあ!」と元気に鳴いて、明良の膝に飛び乗った。

「キャトル…!」

明良はキャトルを抱きしめた。

「良かった…キャトル。」

明良はそう言ってから、キャトルを下ろした。そして「…何もない…か…。」と呟いた。
するとキャトルが「ぐるる…」と怒ったような唸り声を上げた。

「あっ!!」

圭一が気づいて言った。

「キャトル、ごめんごめん!ごはんまだだったね!」
「!…そうか!…お腹が空いたのか。ごめんよ、キャトル。」

明良はそう謝りながら、キャトルの顎を撫でた。キャトルは気持ち良さそうに目を閉じ、喉を鳴らした。
圭一が慌てて部屋を出て行った。キャトルのえさは専務室にあるのだ。

「…何もない…というのは、いいことだな。」

明良はキャトルの顎を撫でながらそう呟いた。キャトルが同意するように「にゃあ」と鳴いた。

……

翌日−

「ドラゴンが、神隠しの犯人だったとはなぁ…」

浅野が新聞を読みながら言った。
神隠しにあったとされた5人の男は、ドラゴンが消滅したと同時に元の場所へ戻されていたのだ。
だが5人とも記憶があやふやで、訳のわからない事を呟いている…と新聞は報じていた。