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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

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圭一が立ち上がって思わず叫んだ。明良が振り返った。

「!?キャトル!」

明良の目にも白い顔の悪魔とキャトルが見えた。

「副社長!」

アルシェがとっさに明良の腕を掴み、部屋の外へ瞬間移動しようとした。だが2人は見えない壁に阻まれて体を弾かれ、その場に倒れた。

「父さんっ!」

圭一が倒れた明良の傍に駆け寄った。

「…あれは…あの時の悪魔か…」

明良が圭一に体を起こされながら言った。圭一が目を見開いた。あの時アルシェが記憶を消したはずなのに、明良はちゃんと覚えている。
副社長室が突然、白く輝き始めた。

「!?」

圭一と明良が辺りを見渡すと、霧に包まれたような場所に変わった。

「魔界じゃないな…。どこか異界に連れ込まれたか!」

アルシェはそう呟くと、はっと上空を見上げた。
ドラゴンが体をくねらせながら、飛んでいる。
圭一と明良も、空を見上げて目を見開いた。アルシェは弓矢を出現させ、ドラゴンに矢を向けた。
リュミエルが圭一達の前に立ち塞がった。

「私から離れないで!」

リュミエルの言葉に圭一がうなずいて、リュミエルを見て驚いている明良の腕を取った。
明良が圭一に言った。

「…お前は…やっぱり命を狙われていたのだな。」
「…大丈夫です。…僕の天使達が守ってくれます。」

圭一の言葉に、明良がうなずいた。

「清廉な歌声を持つ魂もこれまでだ。」

白い顔の悪魔がキャトルをリュミエルに投げて言った。
リュミエルはキャトルを抱きとめ、悪魔を睨みつけた。

「キャトルを…よくも…」
「…ドラゴンを置いていく。…早く清廉な魂を食べたいんだそうだよ。…せいぜいがんばるんだな。」

白い顔の悪魔はそう言うと、姿を消した。
ドラゴンは上空を飛びまわっている。圭一を襲う機会をうかがっているようにも見える。

アルシェが、ドラゴンに向けて何度も矢を撃っていた。
だが、その矢はドラゴンの堅いうろこに弾かれて落ちるだけである。

「…体の中へ撃つしかないか…」

アルシェが呟くように言った。リュミエルは圭一にキャトルを預けて、ドラゴンを見上げた。

「キャトル…」

圭一が抱いたキャトルの体を、明良が心配そうに撫でた。圭一は「僕のせいで…」と涙ぐみながら呟いた。

アルシェは飛び立つと、自分に向いて開いたドラゴンの口の中へ、光の矢を放った。
ドラゴンが苦しみ始め、体をくねらせた。うまくささったようだ。
アルシェは2投目を構えた。だが、暴れ出したドラゴンの口の中に矢を定める事ができず、一旦矢を下ろした。

「くそ…あれだけでは、こいつを消滅できないぞ…」

アルシェがそう呟いた時、リュミエルが意を決したように飛び立った。

「!?リュミエル!?」

アルシェはドラゴンの周りを何かを探すようにして飛ぶリュミエルを見た。
圭一の腕を守るように掴んでいる明良も、リュミエルを見ている。
圭一が何かに気付いたように、はっとして声を上げた。

「リュミエルやめてっ!」

同時にリュミエルは、突然ドラゴンの口の中へ飛び込んだ。

「!リュミエル!」

アルシェが叫び、矢を構えた。
ドラゴンは咆哮しながら体をくねらせ、苦しんでいる。

(くそっ…今、矢を撃つわけには…)

今、矢をドラゴンの口の中へ撃つと、リュミエルも一緒に消滅させてしまうかもしれない。アルシェは「…よし…俺も…」と呟いて弓と矢を消すと、苦しむドラゴンの口の中へ飛び込んで行った。

「アルシェ!…やめてーっ!」

圭一の叫ぶ声が響いた。明良は振り払おうとしている圭一の体を必死に抑えた。
その時、ドラゴンが輝いた。
そして体にひびが入り、間から光が漏れた。ドラゴンは断末魔のような叫びを放つと光と共に、体を爆発させた。
同時にアルシェとリュミエルの体が現れ、地面に落ちた。

「アルシェ!リュミエル!!」

圭一が明良を振り払い、倒れたアルシェとリュミエルに駆け寄った。
その時、残っていたドラゴンの首が圭一に向いた。

「圭一!」

明良は思わず、ドラゴンに背を向けて圭一の体を抱きしめた。その背をドラゴンの口から放たれた光の刃が食い込んだ。

「!!」
「父さんっ!!」

圭一はキャトルを抱きしめたまま、崩れ落ちる明良の体を必死に抱きとめた。
ドラゴンの首はまた口を開いた。圭一を狙っている。
圭一は、キャトルをそっと明良の傍に降ろし、ドラゴンの首に向いて立ち上がった。
そして両手を広げて構え、歌い始めた。

「Amazing grace… How sweet the sound…」

圭一の「アメイジンググレイス」を歌う声が霧の中に響き渡った。
それを聞いたドラゴンは口を開けたまま、動きを止めた。だが必死に首を動かそうとしながら咆哮した。
圭一は涙声になりそうになるのをこらえながら、必死に声を張り上げて歌っている。

その時、突然ザリアベルが圭一の前に姿を現した。そして、苦しみながらドラゴンの首が放った光の刃を片手で弾いた。

「ザリアベルさん!」

圭一が歌うのをやめ、涙を指で拭いながらザリアベルの背に言った。

「…遅くなってすまない…。すぐに終わらせる。」

ザリアベルは、顔だけを圭一に向けてそう言うと、燃えるような紅い目をドラゴンに向けた。 ザリアベルとドラゴンはしばらく睨みあうように対峙した。

『あの結界を破ってきたのか…この裏切り者め…』

ドラゴンの声が響いた。ザリアベルは黙っている。

『ザリアベル…いつまでも天使と組むような事をしていたら、いずれお前は大悪魔(アークデビル)の地位を失うことになるぞ。…そろそろ悪魔らしくなったらどうだ?』
「…地位など…俺から頼んだ覚えはないっ!!」

ザリアベルはそう叫ぶと、広げた両てのひらを拳に変えた。すると稲妻がザリアベルの体から放たれ、ザリアベルの体を包んだ。
ドラゴンが光の刃をザリアベルに放ったが、その稲妻にはじかれた。
ザリアベルは両手をドラゴンに向けた。それと同時に稲妻が、ドラゴンの首に絡まった。
ドラゴンの首は稲妻とともに、のたうちまわるように空を飛びまわった。

ザリアベルは右手を横に振った。すると黄金の剣がその手に出現した。そして、ザリアベルがかがんだと同時に翼が出現した。
圭一は、そのザリアベルの黒々とした翼を初めて見て、目を見開いている。
ザリアベルは飛び立つと、暴れるドラゴンに向かい黄金の剣を振り上げた。そして静かに狙いを定め、ドラゴンの脳天に突き刺した。

「Aussterben(アオスシュテルベン)(消滅)!!」

そのザリアベルの叫びとともに、ドラゴンの首は音もなく光のチリとなって砕けた。

……

「父さん…父さん…」

圭一が泣きながら、息をしていない明良の体を揺すっている。
ザリアベルは、その明良の傍にしゃがみ「Vater(ファータ)」と呟いた。そして唇を噛んで体を震わせ、すっと立ち上がった途端、姿を消した。

「ザリアベルさん!?…父さんを…アルシェ達を助けてっ!」

圭一の声が虚しく響いたように感じた時、鋭い光が辺りを包んだ。

「!!!」

あまりの眩しさに圭一は目を閉じていたが、やがてゆっくりと開いた。