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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

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異様に白い顔の男が後部座席にいる。スーツ姿ではあるが、人間でないような大きな目と口に明良は振り返った。

「そなたは死なねばならん。」

白い顔の男が明良に言った。明良は「え?」と言った。

「『清廉な歌声を持つ魂』を目覚めさせた罪で、そなたは死なねばならん。」
「!?…清廉な歌声…?…圭一の事ですか?」
「そうだ。」

男がそう言って身を乗り出した。明良が首を締めつけられたような息苦しさを感じた時、カーナビから突然、圭一の歌声が流れた。

「!!!!」

白い顔の男は動きを止め、異様な大きな目を見開かせた。そして「くそ…」と言って、そのまま姿を消した。明良は急に呼吸が楽になり、首に手を当てて息を弾ませた。
…信号は青になっていた。後ろの車が、いらいらしたようにクラクションを鳴らした…。

……

「父さん、お帰りなさい!」

明良が副社長室に入ると、ソファーに座っていた圭一がそう言って立ち上がった。

「あ、ああ。ただいま。」

明良は何かほっとした顔をして言った。だが、圭一がふと眉をしかめて明良に言った。

「父さん?…顔色が悪いですよ…。どうしたんですか?」
「そうか?…大丈夫だよ。あまりに雨が強くてね、運転に疲れてしまって…」
「ああ、確かに…。台風みたいな雨でしたからね。」

圭一が窓から外を見ながら言った。今は大分小ぶりになっている。

「コーヒー飲みますか?」
「ああ、頼むよ。」
「はい!」

圭一はそう言い、部屋の奥へと入って行った。
明良はソファーに座り、ネクタイを緩めながら「清廉な歌声を持つ魂…」と呟いた。

「?何ですか?父さん。」
「え?…ああ、いや…なんでもない。」

明良はネクタイを外して言った。そして大きくため息をつくと、天井を見上げた。

「!?父さんっ!?」

コーヒーカップを盆に乗せてきた圭一が、叫ぶように言った。明良は圭一に向いて言った。

「ん?どうした?圭一…」
「…首にあざが…」
「!?」

明良は、はっとして自分の首に手を当てた。

「かなり赤くなっています!お医者様を呼ばなきゃ!」
「圭一、もう大丈夫なんだ…そんな大げさにしなくてもいい。」
「よくないですよ!まるで紐で縛られたような痕じゃないですか!」
「!?」

明良は立ち上がり、掛けてある鏡で自分の首を映してみた。

「!!」

圭一の言うとおりだった。太い紐でしばられたような痕が自分の首に赤黒く残っている。

「父さん!何があったんです!?…言って下さい!」

明良はとまどったように目を泳がせると、ソファーに座りこんだ。

「父さん!」

圭一が明良の横に座った。明良は目を泳がせたまま言った。

「…信じてもらえるかどうか…」
「信じます!信じますから、言って下さい!」
「…圭一。」

明良が圭一の目を見て言った。圭一は目を見開いたまま、明良を見ている。

「…お前…命を狙われているんじゃないか?」
「…え?…」

圭一がぎくりとした表情をした。明良が圭一の腕を取って言った。

「…「清廉な歌声を持つ魂」…お前はそう呼ばれているのか?」
「!?…父さん…まさか…悪魔に会ったのですか!?」
「悪魔だと?」

明良はそう言うと「…そうか…悪魔と言えば…」と呟き、圭一から目を反らした。
あの異様な白い顔はそうかもしれないと思ったのだ。明良は圭一に向いて言った。

「お前…悪魔に命を狙われているのか?」
「!!…それは…」

今度は圭一が目を反らした。明良がその圭一の肩を取り、自分に向けて言った。。

「その悪魔は…「清廉な歌声を持つ魂」を目覚めさせた罪で、私を殺すと言っていた。」
「!?…」
「私が死ぬことで、お前が助かるのならば構わないが、そうはいかないだろう。」
「…父さん…」
「お前を守る方法は何かないのか?…私はお前の歌で助かった。…だが、お前自身はどうやって…」

明良がそう言ったとたん、急に顔をしかめ、頭を押さえた。

「!?父さんっ!?」

圭一は驚いて、倒れ込んできた明良の体を支えた。

「父さんっ!?父さんっ!?」

『圭一君、すまない。』

そのザリアベルの声と共に、2つの影がソファーの傍に現れた。
圭一は明良の体を抱きしめたまま、その影を見た。影はやがて悪魔と天使の姿になった。

「!?…ザリアベルさん…アルシェ…!」
「副社長の記憶を今消したんだ。」

アルシェが言った。圭一が目を見開いた。

「俺たちが気づかないうちに…お父上を危険な目に遭わせてしまったようだな…」

ザリアベルが沈鬱な表情で言った。

「どうします?ザリアベル…。まさか、明良副社長にまで危険が及ぶなんて…」

アルシェの言葉に、ザリアベルは唇を噛んだまま黙っている。…が、しばらくして、アルシェを見て言った。

「ちょっと魔界に降りて調べてみる。…時間がかかるかもしれないから、それまでお前とリュミエルで副社長と圭一君を守れ。」
「…はい。」

アルシェがうなずいた。ザリアベルは2人に背を向け、姿を消した。

……

「つまんない…」

少女形の天使「キャトル」は、浅野のマンションのリビングでふてくされながら、ソファーに座っていた。

「私だけ、お留守番だなんて…。私もパパのところ行きたいなー…」

キャトルはザリアベルが戻ってくるのを待つように、浅野に言われていた。
圭一と父親の明良は、アルシェとリュミエルが守っている。

その時、キャトルは何かに気付いて、ソファーから立ちあがった。

「ザリアベル?」

だが、キャトルは出現した男を見て、顔を強張らせた。
白い顔に、異様な大きな目と大きな口を持った悪魔だった。

「ザリアベルは戻ってこない。」
「…どういうこと?」

キャトルは顔を強張らせたまま言った。悪魔が言った。

「魔界に結界を張ったからな。ザリアベルでも壊せない結界を…」
「…副社長を襲ったのは…そのためなの?」
「その通りだ。…本当は、ついでに殺してしまいたかったがな…。」

キャトルは怒りに唇を噛んだ。悪魔はにやりとして言った。

「後は、アルシェとリュミエルを「清廉な歌声を持つ魂」から離れさせること…。それはお前を…」

キャトルは予感して目を見開き、手を振った。ムチが出現した。

……

プロダクションの副社長室で、圭一と明良はイリュージョンショーの打ち合わせをしていた。
その2人の横には、天使「アルシェ」と「リュミエル」が座り、2人を守っている。
圭一には、その2人の姿が見えるが、明良には見えていない。

「…うん。今回は笑いが絶えないような、楽しいショーになりそうだな。」

明良が見ていた構成表をテーブルに置いて言った。圭一がほっとしたように言った。

「ええ。特に、子ども達が楽しめるようなショーにしたいと思っています。」
「ん。それはいい。」

圭一は微笑んだが、その顔が突然ひきつった。
アルシェとリュミエルが、表情を固くして立ち上がったのが見えたのである。

「?…どうした?圭一?」

明良が圭一のその様子を見て言った。
その時、白い顔の悪魔が明良の背に現れた。手には傷だらけになった子猫のキャトルを掴んでいる。

「キャトル!」