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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

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「後で打ち合わせの報告をしに来てくれ。それからクロイツさんに、食堂かバーでちゃんとおもてなしするんだぞ。」
「はい!わかりました!」
「ん。」

明良は満足そうにうなずき、ドアを出て行った。

「うはぁーーっ!!」

浅野が椅子に座りこんで、思わずそんな声を上げた。

「緊張したー!!」

その浅野の言葉に、ザリアベルは椅子に座りながら、

「お前がどうして緊張するんだ。」

と浅野に言った。

「いやぁ…なんとなく…。」

浅野がそう言いながら、額に浮かんだ汗を手で拭った。圭一が椅子に座りながら笑っている。

「僕も緊張しました。」
「お父上は…」

ザリアベルが、圭一に向いて言った。

「?はい?」
「…いろいろとご苦労された人だな。」

圭一が驚いた表情をした。浅野は微笑んでいる。

「…はい…。」

圭一がそう言うと、ザリアベルは何か黙り込んでしまった。
浅野と圭一は、不思議そうに顔を見合わせた。

……

ザリアベルは、肩身がせまそうな様子で食堂のテーブルについていた。食堂に入ってくるタレントや研究生達が不思議そうに見るからである。
隣には浅野がいるのだが、浅野は気にしない様子で、圭一が3人分の日替定食を頼んでいるのを見ている。

「あ!行く行く!」

浅野がいきなりそう言い、立ち上がった。圭一が手招きしたのだ。
ザリアベルは独りにされ、また気まずそうにうつむいた。

「ここいいですか?」

いきなりザリアベルの向かいの席に、スパゲティの皿の乗った盆を持った青年が立って言った。
ザリアベルは顔をあげ、ただ黙ってその青年を見つめた。
青年は微笑んだまま見つめ返している。ある意味いい度胸をしている。
すると圭一が盆を持って戻ってきて、その青年に話しかけた。

「秋本さん!今日いらしてたんですか!」
「ああ。久しぶり圭一君。ここいいのかな。」
「もちろん!はいザリアベルさん、どうぞ。」

圭一は、その青年の横に座り、ザリアベルの前に定食が乗った盆を置いた。
この食堂名物の「チキンソテーのトマトソースがけ」だった。

「ザリアベルさんのお好きな、バケットはないんですよ。普通のロールパンですいません。」

圭一の言葉に、ザリアベルは「構わない」と呟いた。浅野が2つの盆を圭一と自分の前に置いて、ザリアベルの隣に座った。

「ザリアベルさんって、おっしゃるんだ。僕はバイオリニストの秋本です。よろしく。」

向かいに座った青年がザリアベルにそう言い、手を差し出した。ザリアベルは一瞬こぶしを差し出したが、すぐに手を開き秋本の手を握った。
秋本はその一瞬を見逃していなかったが、何も言わなかった。圭一が言った。

「本名はノイツ・クロイツさんっておっしゃるんです。浅野さんのショーに悪魔役で出ていただくんですけど、その悪魔の名前が「ザリアベル」なんです。」
「へぇ…。クロイツさんは普段のお仕事は?」
「……」

ザリアベルは黙っている。圭一と浅野も困ってすぐには何も言えなかった。

「悪魔だ。」
「!?」

浅野と圭一が驚いた表情をしたが、秋本は「やっぱり」と言って、納得したようにうなずいた。
これにはザリアベルも驚いた。圭一も驚いている。浅野だけがにこにこと秋本を見ている。
浅野は羽が生えている姿を秋本に見られた事がある。秋本はその時、ファンタジー小説が好きで、そういう世界があることを信じていると浅野に言ったのである。

「本物だとは思ってたんですけどね。お会いできて光栄です。」

秋本はそう言って、また手を差し出した。ザリアベルは面食らったような顔をして、その手を握った。

……

「地獄ってないんだ…」

秋本が、食後のコーヒーを飲みながら感心したように言った。ザリアベルは、紅茶をひと口飲んでから言った。

「あるにはあるが、悪いことをすれば堕ちるというものではない。俺たちが引きずって行くことはあってもな。」
「向こうでは仏教とかキリスト教とか…世界が分かれているんですか?」
「そんなもんない。仏教もキリスト教も、元は人間だった者が信仰されているだけだ。神は別にある。」
「なるほどー…」

圭一と浅野は、秋本とザリアベルが話しているのを、黙って聞いていた。
秋本は意外に熱心だった。ザリアベルの話も真面目に捉えている。
秋本は、ふと顔をしかめて腕を組み、椅子にもたれた。

「そもそも、クロイツさんはどうして悪魔になっちゃったんですか?」

圭一と浅野はその秋本の質問にぎくりとした。
圭一が慌てて、秋本に言った。

「秋本さん!…今日、お仕事じゃなかったんですか?」
「ん?別に?遊びに来ただけ。」
「…そう…ですか…」

圭一は、困ったようにうつむいた。だがザリアベルは気にしないように、紅茶をひと口飲んでから言った。

「私は軍人だったものでね。多くの罪のない人々を殺した。…だからだ。」
「でも、それって…」

秋本がまた身を乗り出して言った。

「国の命令でやむなくしたわけでしょう?クロイツさんの罪ではないとは思いますが…。」
「国に逆らって軍人にならなかった者もいる。…そうしようと思えばできたのに俺はしなかった。」
「うーーん…。でもそれで悪魔にされるってのは、可哀想というか気の毒というか…。」

その秋本の言葉に、圭一も浅野も同じ思いを持っていた。ザリアベルはふと目を伏せて言った。

「昔、俺はおかしなところがあってな…。人を殺すことに違和感を感じなかった…。」

秋本達はそんなザリアベルの顔を見て、黙り込んだ。

「ごちそうさま。」

ザリアベルがそう言い、立ち上がった。
圭一と浅野も、思わず一緒に立ち上がった。
秋本がにこにことしながら立ち上がり、ザリアベルに手を差し出した。

「今日は、貴重なお話を聞けて楽しかったですよ。またいろいろと教えて下さい。」

ザリアベルはうなずいて、こぶしを差し出した。圭一と浅野は驚いた表情でザリアベルを見た。
秋本はにこりと微笑んで、その拳に自分の拳を軽くぶつけた。…秋本はそれがザリアベル式の挨拶だという事を理解したのだ。

「Sehen(ゼーエン)wir(ヴィア)uns(ウンス)wieder(ヴィーダー).」(またな)

そのザリアベルの言葉に秋本は微笑んで「ええ…またお会いしましょう。」と答えた。
圭一と浅野が驚いて、秋本を見た。

「秋本さん、ドイツ語わかるんだ!」
「いや、わかんないよ。」
「えっ!?でも今…」
「何か気持ちが通じたんだ。クロイツさんがそうしてくれたのかもね。」

秋本はそう笑いながら言ってザリアベルを見た。ザリアベルは、ただ秋本を見返していた。

……

翌日−

明良は、カーナビから圭一の歌を流しながら、車を運転していた。
雨が強い。
ワイパーを全速にしていても、次から次へと大粒の雨がフロントガラスにぶつかり、視界が悪かった。

「台風はまだのはずだが…」

明良はそう呟きながら、先の信号が赤になったのを見て、ゆっくりとブレーキを踏んだ。
明良は圭一のアルバムが終わったことを感じて、カーナビを操作しようと手を伸ばした。その時、ふとバックミラーを見て、目を見開いた。