キミの写真
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空は既に、夕暮れに赤く染まり始めている。
誰もが卒業式を終え帰宅する時間に、俺は未だ帰る訳にはいかなかった。俺と彼女の卒業式は、まだ始まってすらいないのだから。
誰もいない公園を抜け、裏の森に入る。階段を上がり、向かう先は約束の場所。
――約束の丘へと。
その場所は、俺がひかるに想いを伝えた場所。
その場所は、俺がひかると想いを確かめ合った場所。
その場所は、俺がひかるの想いを誓った場所。
二人の決まり事。二人だけの秘密。誰にも邪魔されない、二人にしか許されない隠し事。
彼女はそこにいる。俺とまた話をするために、いてくれる。
――決めていた、伝えようと。この気持ちを、伝え切れないこの想いを。
形にする方法も考えた。タイミングもちょうどいい。ひかるが受け入れてくれれば、だが。
考えながら、階段を登り切る。開けたその空間。
眼下に広がる町並みを、柵に寄り掛かりながら眺めているその少女は、間違いなく俺の愛した彼女だった。