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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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第6話 襲撃!


 立ち上がった風界王ゼークが叫んだ。
「会議なんてやってられないわよ、ば〜か、ば〜か、ば〜か!」
 こうして会議は一時中断となった。
 土界王ディティアは腕組みをして岩のように目を瞑っている。ファティマはまだいびきをかきながら寝ている。横にいるセイは大きくため息を漏らした。
「ゼークさん、会議っていつもこうなんですか?」
「ええ、いつもいつもいつもの一〇〇乗くらい、いつものことよ!」
「そうなんですか……」
 いつもこんな会議じゃ大変だなとセイは思った。
 ちょっと不機嫌そうな顔をするゼークの顔をチラッと見たセイは、顔の向きを変えてディティアに話しかけた。
「あの、ディティアさん」
 岩が割れたようにディティアが目を開けた。
「なんだね?」
「僕はわからなことばかりなので、質問したいことがいっぱいあるんですけど?」
「言ってみたまえ」
「魔導砲ってゼークさんが言ってましたけど、それってなんですか?」
「〈大きな神〉を倒すために我輩たちが開発した兵器だ。この世界にあるありとあらゆる魔法のエネルギーを魔導砲に注ぎ込み、圧縮して一気に撃ち放つ。まだ一度も仕様したことはないが、魔導砲をくらえば〈大きな神〉と言えどただでは済まんだろう」
「あと、もうひとつ。僕が本当に役に立てるんですか?」
 ディティアはセイの顔を見て、ファティマの寝顔を見つめた。
「〈砂漠の魔女〉と呼ばれていた大魔導師ファティマはこの世界最強の魔導師だった。後にも先にもあの魔導師を越える者は現れないだろう。あの魔導師が君に魔導書を託したのならば、君は多くの者に必要とされる存在なのだ。自分では気づいておらぬかもしれんが、君には大きな才能があるのだろう」
「僕にですか、そんなまさか。実は僕はこの世界の人間じゃないんです。異世界からこの世界に来てしまったんです」
「異世界? おお、そうか。だから、少し変わった印象を受けるのか。君をひと目見た時から不思議なものを感じていた」
 ディディアはセイの話をすぐに受け止めた。そして、こんな話をしはじめた。
「異世界という考えはこの世界にも昔からある。我輩たちは〈大きな神〉によって創られた種族だ。だが、我輩は〈大きな神〉の顔を知らん。だが、〈大きな神〉が存在するのは確かなことだ。その〈大きな神〉は外なる宇宙から来たと云われておる。つまり〈大きな神〉は異世界の住人であるのだ。異世界の者を倒すために、異世界に住んでいた君を選んだか……ファティマ殿も考えたものだ」
「でも、僕はそんな神様を倒せる力なんてないと思います。僕のいた世界には剣を持って街中を歩く人なんていませんでしたし、魔法なんてものもなかったです。僕がどうして選ばれたのかわかりません」
 近くで話をずっと聞いていたゼークが口を開いた。
「でも選ばれちゃったんでしょ? 男なら腹くくってあきらめなさいよ。ファティマ様が選んだんだから間違いなし!」
「でも僕がどうして……。あの、大魔導師ファティマってそんなにすごい人だったんですか?」
 ゼークとディティアは同時に頷いた。
「アンタねえ、ばかじゃないの? ファティマ様はそりゃーすごかったんだから」
「我輩たち〈小さな神〉をも凌ぐ魔導師だった。我輩は土を主に管轄しておるが、この我輩よりもあのお方は土の魔法に長けておった」
 そんなに凄い魔導師がなぜ今この世にいないのか?
 大魔導師ファティマは自分のことを不老不死だと語っていた。そして、暗殺されたとも語っていた。
「ええと、大魔導師ファティマは自分は暗殺されたのだと語ってくれました。でも、いったい誰に殺されたんですか?」
 ゼークとディティアは顔を見合わせた。
「アタシは知らない。てゆーか、みんな知らないと思う」
「我輩も詳しくは知らんが、一説には〈大きな神〉本人が手を下したとも云われておる。だが、実際のことは誰も知らんのだ」
「そうなんですか……」
 セイは深くため息をついた。そして、大魔導師ファティマが表に出てきた時に聞いてみようと思った。
 会話がひと段落して部屋がしばらく静かになった。
 再び目を閉じて岩と化すディティア。ファティマはまだ寝ていて、ゼークもだらんとしている。
 突然、外から大きな物音が聞こえ、しばらくして男の悲鳴があがった。
 岩と化していたディティアが椅子から立ち上がり、ゼークも真剣な顔つきになって身構えた。
 扉が打ち破られ、部屋に緊迫が走る。
 銀に輝く髪が揺れた。左右違う色の瞳を持つ少女。〈大きな神〉の僕――〈光天の書〉に宿る精霊メシア・エム。
「ここに四界王を居ると思ったのじゃが、少し顔ぶれが違うらしいのお」
 槍を構えたエムがセイとファティマを見て微笑んだ。
 この部屋の天井は高く、部屋自体も広い。そのため槍で戦うには問題がないが、魔法で戦うとなれば問題が生じてくる。自然と武器を取り接近戦となることは必定だった。
 ディティアは巨大なハンマーをどこからか取り出し、肩に担いで目はエムを見据えて放さない。
 ゼークは風で作った刃を両腕の手首から肘までの部分に装着させた。つまり、これは相手を殴る格好で刃を向けるという武器だ。
 宙に軽やかに舞ったゼークは円舞を踊るように刃でエムを切り裂かんとする。だが、エムは一撃目を槍の穂先で、すぐさまゼークから繰り出された二撃目を柄で弾き返した。
 エムの前からゼークが後ろに飛び退き間合いを開ける。そして、すぐさまエムの背中に巨大なハンマーが振り下ろされる。
 ハンマーが空気を唸らせエムの脳天を打ち砕こうとしたが、エムはそれを素早く避けてディティアに回し蹴りを放った。
 両手でハンマーを持っていたディティアは回し蹴りを躱す術もなく、小さな足に頬を抉られながら地面の上を回転しながら転倒した。巨体を誇るディティアが小柄な少女の一撃で吹っ飛ばされたのだ。
 舌打ちをしたゼークは作戦を変えた。
「風よ弾丸となりなさい!」
 ゼークの手から空気を圧縮させた玉が連続して発射され、エムの身体を連続して吹き飛ばした。
「アタシの城ごとアンタ倒してやるわよ!」
 ゼークが建物を気にせずに戦うと宣言すると、むくりと立ち上がったディティアを頷いた。
「土よ其奴を押し潰すのだ!」
 ディティアの言葉とともに城が揺れ、部屋の外壁だった岩の壁が剥がれて、幾つもの岩がエムに襲い掛かった。
 遅い来る岩をエムは槍で鮮やかに切り裂き、地面を軽く蹴り上げて飛んだ。エムが牙を向けたその先にはファティマがいた。そして、ファティマはまだ眠っていた。
「ファティマ起きて危ない!」
 セイがファティマの身体を揺さぶって起こそうとするが、ファティマは全く起きようとしない。
 槍の切っ先はファティマのすぐそこまで迫っていた。
 絶対にファティマを守りたい。その気持ちを想った時にセイの口は自然と動いていた。
「光よ、無数の槍と化して全てを貫け――ホーリースピアー!」
 セイの身体から輝く槍が幾つも放たれ、槍を構え宙にいたエムの四肢と腹を貫いた。
 後方に吹き飛びエムの身体が床にバウンドしながら落ちた。そして、エムの身体からは煌く粉が流れ出ていた。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)