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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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第2話 天空都市ラピュータ


 空中に浮くその島は大地をそのまま刳り貫いて宙に浮かせたようである。島の周りは緑で溢れ、水も豊富にあり、鳥や他の動物たちもこの島には住んでいる。そして、島の中心にはセイレーンたちの住む都市があった。この島の名は天空都市ラピュータ。
 セイは真っ青な顔をしながら口元を手で押さえてソファーに寝転んでいた。
 ――気持ち悪い。ファティマの操縦する空の旅は決して快適とは言えなかった。ジェットコースターなど目ではない。
 起き上がったセイが猫背になって嗚咽を漏らしていると、ウィンディが湯気の立つコップを持って現れた。
「これ飲んだらだいぶ気分がよくなると思うぜ」
「ありがとう」
 コップを受け取ったセイはフーっと湯気の立つ液体を冷ましてから口に運んだ。花の香りが鼻を抜け、口の中に爽やかな味が広がった。
「美味しい」
 と顔を上げたセイの目に映るウィンディはゴーグルを頭の上に乗せていて、この時はじめてセイはウィンディの顔を見た。結構カッコイイかも。
「ご主人様ーっ! 起きたぁ?」
 ドタバタと床を駆けて来たファティマがジャンプしてセイに抱き付いた。セイは必死にコップを上げて中身が零れないように死守する。セーフ。
「僕が手に物を持ってる時は抱きつかないでくれるかな?」
「じゃあ、今度からは何も持ってない時に抱きつくねっ!」
「僕が言ってるのはそういう意味じゃなくて、抱きつかないでくれると嬉しいんだけど?」
「えぇ〜っ、男の人は女の子に抱きつかれると嬉しいって聞いたよ」
「どこで?」
「街で」
 あ〜なるほど、とセイは思った。最近は街に着くとセイとファティマは別行動をすることが多くなった。これがこの頃ファティマの性格がとんでもない方向に向かっている原因かもしれないとセイは考えたのだ。
 少し困った顔をしたセイがウィンディの顔を見ると、ウィンディが笑っていたのでセイはすごく恥ずかしくなって、それを誤魔化すように飲み物を一気飲みした。
 少しセイが落ち着いてきたところで、突然何かを叩くような激しい音が聞こえてきた。その音を聞いたウィンディは渋い顔をして玄関に向かって行く。
 ファティマが興味津々でウィンディを追いかけていこうとしたのをセイが背中を引っ張って止めた。
「ファティマが行ってどうするのさ」
「だって、なんかおもしろそうなこと起きそうだし」
「まあね」
 結局セイもファティマと一緒に廊下の陰から玄関を覗き見ることにした。
 嫌な顔をしたウィンディがドアを開けるとセイレーンの男たちが数人、どっと家の中に流れ込んできた。
「おまえってやつは飛空石をなんじゃと思っておるのじゃ!」
 年老いた男にこう言われ、ウィンディは両手を胸の前に突き出して相手を宥めながら後退りをはじめた。
「まあまあ爺さん落ち着いてくれよ、ちょっと借りただけじゃねえか」
 若いウィンディの方が完全に押され気味だった。
「借りただけじゃと!」
 老人の勢いの押されてウィンディは尻餅を付いてしまった。そして、観念して飛空石を懐から出して老人に渡した。
「返すよ返す、だからもう返ってくれ客人が来てるんだ」
「客人じゃと?」
 客人と言われてセイが止めるのも聞かずファティマが真っ先に飛び出して行った。
「ボク客人で〜す!」
 元気よく飛び出して来た娘を見て老人は物珍しそうな顔をした。
「もしやそなたは魔導書に宿る精霊か?」
「うん、ボクは〈ファティマの書〉とともに存在する者だよ」
「やはりな、この娘を捕らえるのじゃ」
「えっ!?」
 ファティマは目を丸くして、すぐ横にいたウィンディも驚いた顔をして、廊下の陰から見ていたセイは声をあげた。
「えぇ〜っ!?」
 唖然とセイがしている中、ファティマは老人の連れの男たちに連れて行かれようとしていた。だが、セイはなにがなんだかわからず、足を動かすことすら忘れて立ち尽くしてしまった。そして、ファティマを救おうとしたのはウィンディだった。
「ちょっと待て、その子は俺の客人だぞ、どうして連れて行くんだ!?」
 ファティマを捕まえていた男たちにウィンディが飛び掛かろうとすると、老人が静かに何かを唱えてウィンディは金縛りに遭ってしまった。
 そして、ファティマは連れ去られた。
 少しして我に返ったセイが変なポーズのまま固まってしまっているウィンディに駆け寄った。
「ウィンディさん大丈夫ですか?」
「いや、身体が動かん」
「僕はどうすれば?」
「少し立てば動くようになると思うんだが、俺のことを引きずって部屋の奥に運んでくれないか?」
「あ、はい」
 セイはウィンディの身体を抱きかかえ、床にウィンディの足を引きずりながら部屋の奥まで運んでソファの上に寝かせた。
「ありがとなセイ」
「あ、あの僕、ファティマを助けに行きます」
「待て待て、そんなに心配しなくても悪くて牢屋に入れられてるくらいだ」
「牢屋に入れられるなんて十分悪いですよ」
「俺の身体が動くようになるまで待て。そしたら俺も行くから」
 一緒に行くと言ってくれたのは嬉しいが、セイはいても立ってもいられなかった。
「でも、ファティマにもしものことがあったら大変ですから僕一人で行って来ます」
「だから慌てるなって。セイひとりで行っても掴まるだけだぞ」
「…………」
 そうかもしれないと思ったセイは押し黙ってしまった。
「ファティマを助けに行く前に、なんでファティマが連れて行かれたのか考えようぜ。心当たりはなんかあるか?」
「いいえ。でも、あのお爺さんはファティマが魔導書の精霊かどうか確かめてましたよね、それがなにか関係あるのかも?」
「あのよぉ、そのファティマが魔導書のっていう話を詳しくしてくんねえか。魔導書っていう物についてはまあまあ知ってるが、魔導書の精霊ってなんだ?」
「さあ、僕もよく知らないんです、ごめんなさい」
 正直な答えだった。セイはファティマの存在をよく知らない。そして、ファティマ自身も自分の存在がなんであるかよく思い出せないらしい。
 ファティマは多くの知識を所有しているが、自分のことになると首を傾げる。本人は最近物忘れが激しくてと笑うが、セイは記憶喪失なのかもしれないと考えていた。
 困った顔をしたウィンディは動かすことのできる首を動かし、窓の外に見える赤い屋根の家を顎で示した。
「そこに赤い屋根の家があるだろ?」
「はい」
「あの家に俺の知り合いが住んでるから、すぐにここに連れて来てくれ」
「はい、わかりました」
 なぜ人を連れて来なければならないのかわからなかったが、セイはウィンディに言われた通りに急いで家を飛び出した。
 石畳の敷き詰められた人工的な道路と石造りの家々が立ち並ぶ住宅街。この辺りで赤い屋根の家は珍しくとても目立っていた。セイはすぐさまその家の玄関に立ってドアをノックした。
「あの、すいません!」
 返事は返って来なかった。そこで、もう一度セイはドアをノックした。
「すいません、急用なんですけど、いないんですか!」
 やはり返事は返って来なかった。
 あきらめてセイが帰ろうとドアに背を向けると、ドアの鍵が開いて中から女性の声がした。
「どなた?」
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)