贈り物
一行は山形を通り、かつて上杉家が治めた旧米沢藩の城下町に入った。徳川幕府の時代、減封につぐ減封で、一度は領地返上寸前にまで困窮した米沢藩だが、名君上杉鷹山(ようざん)が地場産業の振興を図ることで財政を立て直した。
その米沢で、地元の名産品である米沢織りの綿入れが全員に配られた。軽く暖かい上質のもので、そろそろ肌寒くなってきたこの北の地では何よりの贈り物だった。従道の計らいで、先行して米沢に入った中山が呉服屋の姉に依頼して手配してもらったものである。国民協会一行はこの予期せぬ会頭の気遣いに感激した。
自らも同じものを羽織った西郷伯爵は、隅の方にいた中山を傍近くへ呼び寄せた。
「こんお人が、姉さば仕立てたちよか着物ば着ておいやしたでのう。何とも羨ましゅうて」
部屋中の人々に、感謝の意なのかパチパチと拍手されて、中山は顔を真っ赤にしながら頭を下げた。