贈り物
月山は、およそ千三百年前、崇峻天皇の息子である蜂子皇子が開いたといわれる霊峰で、舞鶴山から北西の方向にうっすらとその稜線を見せている。あくまでもなだらかなその山容は、「たおやか」と形容してよいほどに優しい。初秋の青空を背景に、静かにそこにあった。その手前の平地には青々とした水田が広がり、実りの秋を待っている。
さやさやと涼しい音を立てて、風が木々の間を渡ってゆく。
「………天童ち、山に抱かれたごたるのう」
従道はしみじみと言った。佐野はその傍らに立ち、山形盆地を見下ろす。中山はその隣に立った。
「こんな穏やかな風景を眺めていると、何だか夢のようですなあ。わしも二十数年前には庄内藩士として、最上川を越えてここへ攻め入りましたから」
佐野の目は、どこか遠くを見るようだった。
「ですが閣下。あれは藩命ではなく、暴発だったのですよ。天童に攻め入ってはいかんと、藩からは言われておったんです。だが、向こうが攻撃をかけようとしていると聞いて、わしらが勝手に暴発してしまった。わしは指揮官ではなかったもんですから咎めはありませんでしたが、指揮官は皆、殿さまからきつく罰せられました」
少し間があって、ため息のような声が応じた。
「………知っとる」
従道の黒々と大きな目も、朝の光に浮かび上がる遠い山並みの、そのはるか向こうを見つめていた。
「そん熱さも、そん厳しさも全部、兄さは庄内ん人たちば好いとった。………兄さあは、鹿児島が暴発したとき、いっかな議(言い訳)もなしに、黙って身ば任しんさったで」
佐野はかすかにひげを震わせながら、何度も大きく頷いた。