小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

死体お一人様

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 



朝の一件以来、今日の俺は特別不機嫌だ
小僧は昼寝の時間に入ったようで、ピクリとも動かない

俺は、この男の子の父親で、昔ながらの友人の死体に触れた
俺の中の感情はとっくの昔に消えたと思っていたけれど
知っている人間の死はこんなにも胸が痛むものなのか

俺は、小学校中学校と、ろくに勉強もしなかった
高校受験を控えても、何も夢もしたいこともなかった
そのままずるずる落ちこぼれの道をまっすぐ進み、両親からは忘れ去られ
気づけば俺も、この子供からすればもうぎりぎりお兄さんと呼んでもらえない歳になりかけていた

そんな俺でも、唯一の理解者のこいつがいた
俺が20歳の時にであった男で、久々の再会時、こいつは変わり果てた死体になっていた

それより俺はこいつの方が先に結婚して子供まで作っていたことに衝撃を受けたがね
同い年なのに何この違い

俺は診察台に死体を乗せた
首に絞められたあと、鈍器殴られたような後頭部の傷
足の骨折、顔面崩壊、内出血の数
とても1人でどうにかできるような傷ではない
複数か?しかしここまでする理由もわからん
どうせこいつのことだから、つり橋をバイクで走り抜ける勢いで、やばいことしてたんだろう

薬、か
尿、血液、そういうもんは検査済み
少量ではあるが検出された

ストレスか何かから薬に手を染め、薬の取引先との揉め事で暴行殺人…
そう考えるのが最も適当だと考えた

息子や嫁を持つ身でありながら何を血迷ったのか
こいつの心は誰も理解できないし、してやれないかもしれない
生きている間に、もっと話を聞いておくべき…だったのか

いかん
感情なんて持って死体触ってちゃ、この仕事が務まらない

俺は、崩壊した顔面を正しい位置に戻す手術を行った
徐々に現れてくる懐かしい顔
折れた歯のせいで、頬が下がって老けてみえる
閉じたままのまぶたに、もう声を発することのない口
あぁ、死体というのは本当に冷たい塊なのだ
動かず話さず熱を持たずにいる

ふと眠りから目を覚ました子ども
父の手術される姿におびえているのか?こちらを見たまま、少し眉下げている
動かなくなったこの父に、この子は何を思うのか
冷静なようでいて、実は今にも泣き叫びたいのだろうか
本当にこの父に対して感情などないのだろうか

俺がこのくらいの歳の時はすでに、感情を持たない小さなただの器であっただろう

「よし、終わったぞ」

「死因、わかったのか?」

「窒息死、散々暴行された後に首を絞められたんだろうな」

「なあ、あんたは殺したい人間って、いる?」

「俺にはいない、俺はこれ以上殺人事件が増えなきゃいいと思ってる人間でね」

「俺はいる…父さんを殺した奴」

「復讐ならやめておけ」

「じゃあ、あんたは父さんを生き返らせることは…」

「無理に決まってるだろ、どんな凄腕の医者でも、どんな凄腕の科学者でも
そんなことできるわけがないんだ」

「…」

悔しそうな瞳は、小さいながらに迫力を持った瞳だった
死体の瞳と向き合う俺には、熱すぎる目だ

作品名:死体お一人様 作家名:餅きなこ