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死体お一人様

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とはいったものの、
溺死は正直綺麗な死に方とはいえない
来ている服を脱がせ、新しい服に着替えさせてやる
髪もなるべく綺麗に整える
男の俺がなんでこんなことをせにゃならんのかわからんがね

「こんなもんかな…」

診察台で眠るようにして死んでいるこの女の子
腹の中の子はいったい何ヶ月目だったのか

さっきまで死体に触れていた手を洗い、軽い夜食を作った
3人分の夜食だ
俺とおばあさん、そして、さっきっからいる男の子へ

「おい、俺の父さんはいつやってくれんだよ」

「あー大丈夫、別にいますぐ腐るわけじゃないしな」

「ぶー…俺だって金はらって」

「はいはーい、文句言うなら別のとこいってくださーい」

夜食を配りならが悪態をついてくる小さな体にぽんっと拳をぶつけてやった
やわらかそうな頬をいっぱいに膨らませて拗ねている
それでも俺の夜食はしっかり食べやがるので、それでまた小さな喧嘩をした

それを見ておばあさんは切なそうに小さく笑っていた

「懐かしいわ…私の主人と息子を見てるみたいね…」

「俺がご主人に似てるなんて、さぞご主人は男前だったんでしょうね」

「黙れよ変人!」

「餓鬼は黙ってろ!」

「ふふふっ…そうねぇ、私が初めて一目惚れした相手ですからね、それはそれはかっこよかったわよ?」

「へぇ、じゃ、あの女の子は息子さんの娘さんですか?」

「ややこしいなぁ」

「餓鬼にはなー」

「うふふっ そうねぇ…うちの孫は、生まれてすぐ、入院することになったの、心臓病でね
息子夫婦は貧乏だったから、毎月入院費を払うだけでもやっと
それが10年つづいてね?やっと退院したと思ったら、
息子夫婦は孫に対して、

”お前のために苦労したんだ”
”10年間こんな子のために金を使っていたと思うと泣けてくる”
”早く就職して俺たちに楽をさせろ”

こんなことばーっかり…」

俺は夜食をほおばりながら、今にも泣き出しそうなおばあさんの話を真剣に聞いていた
長い闘病生活で、幼稚園や学校も経験したことがなかっただろう
友達もいなかったんだろう、唯一の見方でいてくれるはずの親から、こんな冷たい言葉を浴びせられ、辛くないわけがないだろう

俺の勝手な考え、推測だが、精神的にも、辛い毎日だったに違いない

「中学校から、真面目に通うようになった
でも、小学校の基礎がないから、いきなり中学の授業についていけるわけがないでしょ?
成績も回りに比べて悪い、受験生になっても入れる高校は本当に少ない
必死の思いで入った高校は、酷く荒れていて、内向的な娘は真っ先にいじめの対象になった
クラスメイトからの性的暴行にあって、妊娠…
中絶にもお金と、男の子側の承諾もいる
そんなの、あの子には無理だったのよ…病院にいくお金もないから、徐々に膨らむおなかに不安を持ち始めて、孫は気づけば、取り返しの付かないことをしてしまった」

おばあさんはとうとう泣いてしまった
俺はなだめるようにおばあさんの背中をさすった
外からはカップルの笑い声が響いてくる
俺のこの家を出れば、幸せな笑い声
俺のこの家に入れば、不幸な泣き声
俺は、小さくため息をつき、席を立った

作品名:死体お一人様 作家名:餅きなこ