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Under the Rose

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14. Recollection(1/2)



「桂、もういい! キリがないから逃げるよっ!」
月のない夜に、妹の手を引き駆け抜けていく沙耶の姿があった。
数日に渡った相手の沈黙は何の前触れもなく破られ、今もこうして追いかけられている。
息の合った動きで最初は押せていたものの、真と同様数にはかなわないらしく、その上こちらは体力も真と比べ低い。
何度目かの対峙ののち、沙耶はついに逃げることを選んだ。
桂も黙ってそれに従い、二人は夜の中を走り続けている。
「……まだ追ってくる」
「おかしいなあ……あ、桂。そこ曲がろう」
「わかっ――――っ!?」
道を曲がったところで、目の前に迫る人影に気付く桂。だが、止まれば後ろを走る人間に追いつかれてしまう。
一瞬での判断を迫られるものの、おちおち足を止めることもできず走り続ける。
その時、目の前へ近づいてくる人影が声をあげた。
「え、あぁ!? どいて、どいてどいて、わだっ!!」
「桂ちゃん!」
お互い止まろうとするが間に合わず、桂と聞き覚えのある声をした人影は思い切り正面衝突した。
というより、人影の方が勝手に桂の目の前まで来たところでつまずいた。
「……真!? 何してるのよこの馬鹿!」
「あ、あれ……桂? あいたた、頭打った……」
どうやら、別行動をとっていた真も二人と同様に追いかけられているらしい。
そんな中で偶然合流した上に衝突するとは、運が良いのか悪いのか。
前のめりに倒れ、桂の上に覆い被さる形になった真は大げさなほどに痛がり頭をさすっている。
「真くん、早くどかないと人が来ちゃうよ」
「そう! そうだわ……あ、あれ?」
「真?」
「足が……動かない」
「はぁ!? 出来の悪い冗談はやめて頂戴! どいて、どきなさい!!」
「待って、桂」
抵抗し、ついには暴れ出そうとした桂を制止したあと、沙耶はおもむろに真のそばへ移動し――その足を思い切り踏みつけた。
踏みつけた、というより現実には蹴り倒したに近いそれは、一度ではなく数度にわたって繰り返される。
「やめてやめて死ぬ死ぬ! ……ん?」
「痛い?」
「痛くない……沙耶、ホントに踏んでる? というか、触った?」
「何? どういう事なの? ちょっと真、私に分かるように簡潔に説明なさい」
一人だけまったく状況を理解できず、眉をよせて表情を歪ませる桂。真の胸ぐらを乱暴に掴み、無理矢理に引き寄せた。
だが、真本人も何が起こったのかはろくにわからないらしく、ただ首を横に振るだけ。
「時間がない。真くん、ちょっと失礼するよ」
言うなり、沙耶は返事を待たずに真の身体を持ち上げ、そして雑に抱き上げた。
「姉さん」
「桂、行くよ。おとなしく捕まるわけにはいかない」



入り組んだ空間を抜け、広い一帯に出たところで沙耶は走る足を止めた。
振り返り、目前まで迫っていた人間を空いている左腕で殴ったあと、思い切り腹部を蹴飛ばす。
そして、流れるような動きで、左にいたもう一人の人間をも強引に突き飛ばした。
「うぎゅっ」
もちろん、今まで沙耶にかつがれていた真は彼女が足を止めると同時に地に投げ出され、情けない声をあげている。
打った頭を押さえながら上半身を起こすが、足はどうやっても動かないらしく立ち上がる様子はない。
そんな真をちらりと見やったあと、沙耶は何か思索するように唇を噛んだ。
「桂、すまないが囮を頼めるかい」
その言葉を聞いても、桂はさほど驚かなかった。
役に立たない荷物と化した真をしょったままでは、三人とも逃げ切れない。
となると、一人が真を連れて先に逃げ、残った一人が時間を稼ぐしかない。
かといって、桂には真を背負いその上で走れるほどの力はなかった。
重量は問題ないにしても、体格差だけはどうしようもないのだ。
「任せて頂戴」
しっかりと頷き、それに応えるようにして沙耶も頷く。
先ほど投げ出した真を再び抱きかかえ、体勢を整えながら走り出す沙耶。場には桂一人が残される。
足音は小さく、そして遠くなっていきすぐに聞こえなくなった。代わりに、別の方向から迫ってくる慌ただしい足音。
「……」
わずかな沈黙の中で、桂はコートからナイフを取り出し――そして、その鞘を抜いた。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴