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Under the Rose

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13. エトランゼ(3/3)



「桂ちゃん、ごめんねー遅くなっちゃったよー」
ちょうど日付が切り替わった夜更けに、沙耶は静かに桂のもとへと戻ってきた。
いつも通りののん気な笑みを浮かべ、部屋に一人座り込んでいる桂に近づく。
「姉さん」
「ん?」
「どんな話をしたのか知らないけど、今度からは私も連れて行って」
「……桂ちゃん? どうしたの?」
「……」
沙耶の位置からは、桂の後ろ姿しか見えない。が、その背中はよく見るとわずかに震えていた。
「……」
桂が、沙耶の前で涙を流すことはめったに無かった。
なにか悲しいことがあったとしても絶対に泣きはしなかったし、少なくともここ数十年で桂が涙を流したのはたった一度だけである。
それは、十年前に真に負けた時。
あの時だけは、桂は沙耶の前であるにも関わらずに思い切り泣いた。
負けた事に対する悔しさと自分の無力さに胸をいっぱいにして、肩を震わせてずっと泣き続けた。
「姉さんがいなくなったら、私はおかしくなってしまう……」
「……桂」
「行かないで、お願いだから一人で遠くへ行ってしまわないで。ここにいて」
「桂」

きっと、桂は自分に涙を見せたがらない。そう思い、沙耶は桂の表情が見えない体勢で桂をやさしく抱きしめた。
指先が相手の身体に触れた時、一瞬だけ桂から息を詰まらせたような小さな声をもれる。
「大丈夫だから」
「……」
「皆が、桂をいらないって言っても……最後までわたしは桂のそばを離れない」
「……」
「たとえ、最後の二人になっても構わない。この誓いにかけて、ずっと桂を守ってみせる」
自身の首元に下げたリングネックレスを握り、沙耶はしっかりと言葉をつむぎ続ける。

「……姉さん」
「うん」
「もし、私達がこの世から拒絶されたらどうするの?」
「一緒に逃げるよ」
「……どこまで?」


数十秒ほどだろうか。短くもない沈黙を経て、沙耶が静かに頷くような動作をした。
そして、桂を抱きしめる腕の力をわずかに強めたあとに、言った。
「世界の果てまで、かな」


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴