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Under the Rose

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10.5.Daydream(2/8)



辺りが少しずつ明るくなっていく。
先ほど転んだ体勢のまま、もう身体は何一つ勝手な反応を見せなかった。
「……」
静かに目を閉じる真。
全てを遮断し、終わりの瞬間を待つ。閉ざしてしまった聴覚に、その足音は届かなかった。

「……生きて、ますか?」

足音と違いはっきりと上から聞こえてきた声を、真は聞き逃していたわけではなかった。

確かに耳には入っていたが、あえて反応を返さない。きっと偶然通りかかった運の悪い人間だろう。
「……死んでるのかな?」
肩の辺りを触られ、二度三度と揺さぶられた。
手が離れたかと思うと、今度は頬のあたりをつんつんと突付かれる。
「……何」
耐えかねて、つい返事をしてしまう真。聞こえるか聞こえないかギリギリの声で、相手の反応を待った。
「生きてますか?」
少年――いや、あどけない印象はあるがそんなに幼くはない。少々高めの青年の声だった。
穏やかに、いってしまえばマイペースに。必要以上の感情を感じさせない喋り方。
普通こういった光景を前にすれば、多少は動揺してもおかしくないはずなのだが、そのような様子は全くない。
「死んでたら喋らないでしょう」
「死にたいんですか?」
「……」
「僕もそうなので、わかります」
他人の事情にずかずかと入り込む、図々しい青年。
この時点ですでに真はうんざりしていたが、どうせこの会話が続くのも夜明けが来るまで。
それならば、最期の気まぐれとして付き合ってやっても悪くはない。
「あまり、見目のいいものでもないわ」
「このあたりは人も通りませんから、大丈夫ですよ」
「(そんなことは聞いてない……)」


「いいわ。どうしようもないくらい変な人間のあなたに、少し話をしてあげる」
話しぶりからするに、この青年は桂らと同じく真の姿が正しく見えているらしい。
真の中に、わずかな興味が生まれる。
「私、人間じゃないわよ」
「そうなんですか。……あ、名前はなんていうんですか?」
「真」
「……」
「まぁ、このまま死ぬからもう必要のない名前だけれど」
真の名前を聞いた途端に、青年の返事が途絶えた。不思議に思った真が、首から上だけをわずかに動かし
視線を青年の方へと向ける。その目に映ったのは、悲しげにうつむく青年の表情。そして全体像。
体格は青年のそれだったが、どちらかというと顔は童顔で十代を名乗っても何も不自然ではない。
そんな顔立ちに加えて、今時ではない大人しめの髪型が余計に青年を幼く見せるのかもしれない。
「……あ」
突然、見つめていた視線の先で青年が声を上げた。同時に二人の視線が重なる。
自分にどこか似ている目だ、というのが真が青年のまなざしに対して最初に抱いた印象だった。
真っ黒な瞳の向こうには何も見えない。何も映っていない。
「そうだ、じゃんけんしましょう」
「……」
視線に続くのは、突拍子のない一言。この人間は一体何を考えているのか。
もうすぐ死ぬと言っている怪我人相手に何がしたいのか。真は、もう少し様子を見ることにした。
「勝った方は負けた方になんでも命令できるということで」
「……」
「あ、ひとつだけですよ」
「……」
一方的な会話のまま話は進み、やがてじゃんけんは始まった。
真は青年のほうを見たまま動かず、手も弱々しく地に投げ出したまま。
見ようによってはパーに見えなくもない。
「勝ちました」
「……」
どうやら、チョキを出した青年が勝ったことになったらしい。強引といえばかなり強引なやりかたである。
勝った方が命令すると言っていたが、どれだけぶっ飛んだ命令が飛び出すのか。
真自身、呆れながらもまったく期待していないといえば嘘になった。
「じゃあ、一ついいますね」

一瞬息を詰まらせ、言うのをためらったような動作のあとに青年は静かに呟いた。
「今日から三日でいいです――死なないで下さい」


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴