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Under the Rose

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10.邂逅のあとに(3/3)



「やれやれ、ここって一番上か。桂……階段を探そうか?」
「そうね」
まっすぐに通路を抜ける二人。と、そこに二人以外の声が響く。
「お……っお前ら!!」
「あ、眼鏡くんだ」
そこに立っていたのは、伊織だった。だが、追いかける様子はなく何やらごそごそと動いている。
「人を呼ばれたらまずいじゃない? 姉さん」
「そうだねぇ……あ、眼鏡くんの後ろに階段がある。通り抜けちゃおう」
「早く来い、急げ! おい、お前ら……止まれ! 止まれと言っているッ!!」
沙耶は右、桂は左。それぞれが、携帯を手に声を荒げている伊織の真横をすり抜けていく。
それに一歩遅れるようにして、二人が通って来た道を走り追いかけている数人の人間。
相手の行動に完全に遅れをとっている。
「あぁもうっ!! だから髪が黒くない奴は嫌なんだっ!!」
「……伊織。みっともないから、そんな風にわめくんじゃない」
「うるさいな! こんな時だけ父親面しないでくれないか、不愉快だっ!!」
伸ばされた手をはねのけ、二人を追うべく走り出す伊織。
一人残された穂村は、困ったように笑い――複雑な表情を浮かべた。

階段を駆け下りる二人。だが、進行方向をふさぐように立ちはだかる人間を見るなりぴたりと立ち止まった。
階段の下は完全に絶たれてしまう。来た道を見れば後を追ってきた数人の人間達。
相手にできない数ではない。
が、正面からぶつかって決して無傷で通過できる数でもない。
今はそれぞれ数人ずつしかいないものの、増援が来る可能性は否定できない。
じりじりと、窓の方へ追い詰められていく二人。
「……」
窓ガラスに手を付き、外を見やる沙耶。大きめの窓で、外の景色がはっきりと見える。
地面からの高さを考えると、現在位置は三階くらいだろうか。おそろしく距離があるというわけでもない。
「姉さん、どうするの……?」
ささやくようにして、ひっそりと桂が問いかけた。
多少ではあるが、その声には不安の色が混じっている。真と争ったのち、彼女は少なからず疲弊していた。
その上外からは見えないものの、身体には多くの傷が残っている。
「うん」
「え、ちょっと、姉さんっ!?」
突然、隣にいた桂を抱き上げた沙耶。体勢を安定させたあと、遅れて現れた伊織のほうを見た。
「眼鏡くん、穂村さんに一つ伝えてほしいんだけど」
「……」
一つ、二つと伊織のほうへ歩み出る。
「今までどうもお世話になりました、ってね!」
「……!? おい、あいつらを捕まえろッ!!」
言い終わるより早く、沙耶はくるりと反転しそのまま駆け出した。
ガラスが派手に砕ける音。
先ほど伊織に歩み寄っていたのは、わずかな助走の距離を確保するためだったのだ。
まず、蹴りで大部分を割る。そして、抱き上げている桂を飛び散るガラスからかばうようにして、そのまま外の闇へと飛び出した。

「――っと!」
落下し、そのまま体勢をほとんど崩すことなく着地する。その後片方のひざをつき、桂を地に下ろした。
三階の高さからの落下。
人間ならば骨折するほどの衝撃だが、沙耶は多少痛がっているだけである。
どうやら両足に痺れがきているらしく、すぐには立ち上がらずにその両足をさすった。
「さすがにくるね」
「走れる?」
「だいじょぶ、そこまでへばってないよ」
何事もなかったかのように、すっと立ち上がる沙耶。
建物内がなにやらばたばたと騒がしい。おそらく、飛び降りた二人を追うべく下の階層へと人間が移動しているのだろう。
「よし、刀も無事っと。行こう」

そのまま走り出した二人は、闇の中へと消えた。
追う側から一転、真と同様に追われる側になった二人。だというのにどこか楽しげなその様子は、演技かはたまた真実なのか。
知る者はいない。

作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴