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Under the Rose

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10.邂逅のあとに(2/3)



一方。
狭く暗い部屋の中で、その時を待ち続ける存在が二人。

「ふふっ、ふふふふ……」
壁を背に座り込む沙耶。笑いが止まらないとばかりに、喉のあたりからしゃくって出したような声を出す。
向かいにいた桂が、不思議そうに問いかけた。
「姉さん、楽しそうね」
「そりゃ楽しいさ。見てごらんよ? この扉。オモチャみたいな鍵がついてるけど、こんなの片手で壊せるよ」
「閉じ込められているのかそうじゃないのか、状況の理解に苦しむわ」
部屋とその外を繋ぐ、唯一の扉。外側から鎖のように鍵がかけられている様子が、狭い窓からうかがえる。
普通の人間ならばまず正面突破は無理である。
人間ではない二人にも、扉の向こうの鍵を外すということは不可能に近い。
ならば。
「この時代の人間は吸血鬼の扱い方を知らないんだ……一時はどうなることかと思ったけど」
「丁度月が出る頃かしら」
「そうだね、行こうか。もうバレちゃったんだ。遠慮する必要もないさ」
「勿論よ」
ならば、やる事は一つ。
扉ごと壊してしまうこと。
直後、派手な音が響き――二人はその閉鎖された空間から抜け出した。

「ひっろいなー、ここ」
走りながら、沙耶は軽く驚きの色を乗せて言う。
病院のような、白い壁が続く。いかにも、どこからか消毒液のような匂いがしてきそうな落ち着かない建物である。
そこは、沙耶にとっても桂にとってもはじめて訪れる場所だった。
深夜のせいか人気はほぼないに等しい。
とはいえ、見つかってしまってはこの迷路のような空間の中で逃げ切れる保証はない。
力ずくで片付けても構わないのだが、二人も傷を負う身。避けられるのなら避けた方がいいに決まっている。
「お」
扉が開け放たれたままの部屋の前を通り過ぎたところで、足を止める沙耶。
「どうしたの?」
「切り札くん発見」
人の気配がないのを確認して、部屋に入る。
そしてテーブルの上にあった何かを取り、沙耶は部屋の外で目をぱちくりさせている桂に『そのまま走って』と合図した。
それを追うように、沙耶も遅れて走り出す。
通路を走りながら、横並びになる二人。
「あ、それ……」
「そうそう。刀、置いてあったから返してもらった」
「そういえば、それって前は持ってなかったわよね? 盗んだの?」
「まさか。穂村さんのおじいちゃんに貰ったんだよ」
「ふーん……」
自らと姉はいつも一緒にいたはずだが、意外と自分の知らないところでも事は進んでいるのだなぁと思う桂だった。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴