Under the Rose
10.邂逅のあとに(1/3)
姉。
一九XX年二月二十七日生まれ、二十九歳A型。
現在は五十四歳。
妹。
一九XX年八月十八日生まれ、二十八歳AB型。
現在は五十三歳。
ライセンスを取得したのは二十五年前。
以前から調査、捕縛を問わずハンターとしての仕事をこなしまずまずの功績をあげていた二人。
取得の際も、そういった積み重ねによる信用があったために、名前、生年月日など必要最低限の事しか問われなかった。
ライセンスは同業者の間で名刺のような役割を果たすほか
『所持している』というだけで関係者にはあらゆる面で優遇される。
姉妹はおそらく、その優遇面を利用するべく取得したのだと思われる。
だが、突如二人はその正体を明らかにした。
そしてその事実が同業者に伝わるよりも早く、一つの事件を隠れみのにして姿を消してしまった。
後になって二人が国外逃亡したという事実が見つかったものの、その後でどこへ行ったのかは結局不明のまま。
二枚のライセンスは荷物とともに部屋に残されていた。
二人と交流を持っていた者の話によると、姉は後ろ姿だと男と間違ってもおかしくないほどの短髪。
性格は真面目だったが、飄々としておりどこか掴みどころのないタイプだった。
一方、妹は長い髪を下ろし、人形のように無口で少しも表情を変えなかった。
いつも姉の後ろに付き、その声を聞いたものは仲間内でもほとんどいなかったという。
だが、髪の長さや性格はたとえ成人していても時間とともにいくらでも変わる。
変わらないのは顔立ち、そして人間とは明らかに違う特徴の数々。
老化を知らず、その身体は何十年経とうがほとんど劣化しない。身体能力や治癒能力も人間の比ではない。
そのため、傷を与えれば人間かそうでないか一発で見分けがつく。
「吸血鬼がハンター、ねぇ……しかも向こうじゃそれなりに名が知れてたんだろう? 前代未聞だなぁこりゃ」
いつもの部屋とは違う、小奇麗な――いってしまえば殺風景で息苦しい空間。
そこで、穂村は二人のライセンスを眺めては「ほぉー」だの「へぇー」だの感嘆に近い声を上げていた。
「あなた、今の今まで気付かなかったんですか」
横から刺々しい嫌味を送る伊織。
いついかなる時も着ているスーツは崩さず、穂村はそれを多少堅苦しく感じているのだが、伊織本人そんな事は気にもとめていない。
「いや、だってさ。帰国子女だっていってたからね、信じたさ。それに……ウチへ来るということは、いかなる形であれ吸血鬼と縁があるということだ」
「そりゃそうですけど」
「それだけ分かれば普通は十分さ。違うか?」
「……もういいです。それで、あの吸血鬼達はどうするんですか? まさかこのままさよならともいかないでしょうし」
「手紙には、二人を送り帰せとは書いてなかったな……」
「ええ。ただ、そういう存在がいるとだけ」
「あの二人は変わり者だが真剣だった。それが嘘だとは思えない、ないけどな……」
作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴