Under the Rose
09.残照(2/2)
左右いたる所にやっていた沙耶の視線が、やがて一箇所を見たままで止まった。
「覗きとは関心しない」
「失礼な。覗きじゃあない」
「ずっと見てたのかい」
「まさか」
「……卑怯なことを」
沙耶の視線の先から、一人。それは穂村に『伊織』と呼ばれていた眼鏡の青年だった。
そして、その後ろには車椅子に乗った穂村の姿。
他にも、あらゆる方向から数人の人間が姿を現した。ほとんどが沙耶や桂にとっては顔見知りの、二人の同業者たちである。
「姉さん……」
「大丈夫。ここは任せて」
「用件があるのなら、私が聞くよ」
桂をかばうようにして、沙耶が伊織と向かい合う。
「手短にいこう。よその国で、吸血鬼の身でありながらハンターのなりをしていた姉妹とは君達のことで間違いないか?」
伊織の話し方はひどく淡々としていた。そこには、感情一つこもっていない。
こもっていたとしても、間違いなくプラスのものではない。
「……違うと言ったら?」
「証拠がある。その姉妹というのがまた間抜けでね、あちらの国特有の……ハンター専用のライセンスを取得してるんだよ」
「……」
「そのライセンスを取得したのは二十五年前。そして、その時点での年齢は二十八歳。今生きていたら五十三歳のはずだ」
「……それで?」
「何故、当時の写真と今の姿が一緒なんだ? なぜ二人とも老けていない? 説明してもらおうか」
「それは……っ!? 真!」
錯乱していた真が、突然くるりと振り返って走り出したのを沙耶は見逃さなかった。
おそらくこの想定外の騒ぎに乗じて姿をくらますつもりなのだろう。だが、状況が状況。追おうにも周りをハンターに
取り囲まれ、身動きがとれない。耐えかねた桂が声を荒げた。
「ちょ、ちょっと! 今逃げたのは吸血鬼よ、追うべきではないのッ!?」
「今は野良犬よりお前ら二人のほうが大事なんだ。さぁ、認めるか認めないか」
「私達が吸血鬼だというのなら、昼間に太陽の下を歩いていることはどう説明する? 聞かせてもらおうか」
「それはまた追々聞かせてもらう。小夜啼鳥の言う事に、まず間違いはない。……それでいいでしょう?」
「すまない、二人とも。俺は過去何やってる奴だろうが関係ないと思ってるんだけどね……吸血鬼となると、な」
伊織の後ろで、穂村が深く頭を下げた。
「……」
「ま、なるようにしかならないさ。おとなしくお縄につくとしよう」
作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴