Under the Rose
07.鷹と蛇/その2(4/4)
「――」
一瞬のブレのあと、すぐに視界は元の姿を映し始めた。
そこには変わらず真の姿。
「ねぇ、真」
「なぁに?」
「……さ、再戦……しましょう」
「再戦? また鬼ごっこしたいの、あなた?」
自分でも言ってることがめちゃくちゃだな、と桂は思った。
何故か。
その時何故か、真をそのまま行かせてしまうことにためらいを感じてしまったのだ。
あの夜の事を忘れたわけではないのに。
真の言っていた『酔狂』という言葉が蘇る。まさに、その通りなのかもしれない。
そしてとにかく何か口に出そう、と思い桂が出した言葉は『再戦』だった。
負けず嫌いの桂らしいといえば、らしい。本人は後悔していたが、もう後には引けなかった。
「そ、そうよ」
「……いいけど、いつ?」
「明後日……はどうかしら」
「明後日ね。じゃあ、また明後日の晩に」
「えっ、ええ……」
返事をした桂の表情は、これ以上ないほどに引きつっていた。
「(姉さんと仲直りもしてないのに、また問題が増えてしまった……)」
「と、ということで……えっと、あの、その……ね……」
結局、桂はとぼとぼと一人沙耶のもとへ帰った。
迎えてくれた沙耶は表情こそ笑顔だったが、やはりどこかぎこちない。
そして謝ろうとする桂も、そういう類は苦手らしくしどろもどろになっていつまでも言い出せないでいる。
「桂ちゃん」
「え、あ、はい」
数時間にわたる沈黙のやりとりにしびれを切らしたのか、沙耶が口を開いた。
「あのね」
「うん」
「わたしのこと、ぎゅーってして」
つまりは、抱きしめてくれということ。
発言には突拍子がなかったが、今の桂にはそれに従うほかなかった。
両腕を広げた沙耶を、言われるがままに抱きしめる。
「これでいい?」
「うん、ありがと」
その言葉を聞き抱きしめを解こうとした桂を、沙耶が抱き返す形で引き寄せた。
逆に抱きしめられる体勢になってしまった桂。
肉体的にも精神的にも身動きがとれず、ただなすがままに身体を預ける。
「……姉さん?」
「今度こそ守るから。この前みたいな目には合わせないから」
「うん。あと、あの……姉さん」
「なに?」
「……ごめんなさい」
作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴