Under the Rose
06.Hide and Seek(後)(2/2)
「――ッ!!」
その鼓動は、終わりのない暗闇の中にいた沙耶にもはっきりと届いた。
嫌気がさすくらいに満ちている真の気配の中に、桂の気配が見え隠れする。
「(そう遠くない!)」
やっと沙耶は、はっきりと妹の位置を特定した。双子である以上、テレパシックな何かでも存在するのだろうか。
瞬間、身体を離れなかった重りが一気に外れた。疲れているのを忘れて、ひたすらに目標へ向けて走り出す。
だが、沙耶の内を占めていた不安は消えることがなかった。
これ以上ないくらいに嫌な予感がした。
理屈でもなんでもない、ただ予感でしかないものを感じてならなかった。
何事もなければいい、と自分に言い聞かせながら闇から闇へと抜けていく。
そんな彼女の期待は、直後に根底から打ち砕かれることとなる。
「あは、あははっ、あは」
そこには、棒読みにも近い乾ききった笑い声だけが響いていた。
沙耶の目に映ったのは、壁にぐったりともたれかかり震えている妹と、そのすぐそばで
勝ち誇ったかのような表情を浮かべ立っている真の姿。吸い込んだ息が、どこかで詰まってしまったような気がした。
そこで何が起こったのかは説明がなくとも明らかなもので、沙耶は言葉も出ずにただ立ち尽くす。
「どうしようもなく気持ちいいわ……こんなに気分がいいのは、久しぶり」
「け、桂ちゃん……」
「随分と遅かったのねぇ。あはは、臆病者に役立たず。あはっ」
「妹に……一体、何をした?」
息が詰まった状態で、ぎこちなく沙耶は怒りを含んだ問いかけを口にした。
何が起こったのかはわかっていた。
だが、今の沙耶はその現実を受け入れたくなかったのだ。全ては自分の判断ミスにある。
頭の中でぐるぐると様々な考えが循環し、複雑に絡み合っていく。
「あぁ、でもね。またすぐ退屈になるの。人間は少し心に触れただけで、壊れてしまうから」
「……」
「ほんの少し狂わせてあげるだけで、すぐに私の言いなりになる。そしてこの世の終わりだとばかりに抵抗していたのに、私に切願しはじめるの」
「はぐらかさずに答えろ! 一体何をしたんだと聞いているッ!!」
「さあね。説明する必要もないでしょう?」
続く言葉。
『この勝負、私の勝ちね』と吐き捨て、一瞬わざとらしいほどの笑顔を浮かべ、そのまま二人の背中を向ける。
「どこに行く?」
「勝負はついた。賭けたものは手に入れた。まだ何か用があるの?」
ガタガタと震えている桂を抱きしめ、威圧的な視線を真へと向ける沙耶。
「……それは」
「あなたは私に何をしてくれる? あなたはこれから私をどうするっていうの?」
「……」
「そんなに必死にならなくても、また遊んであげるわよ――そう、また!」
夜明けが来るその数時間ほど前。
満月の晩に行われた、三人の『鬼ごっこ』は誰にも知られることなく終わった。
作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴