小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Under the Rose

INDEX|22ページ/68ページ|

次のページ前のページ
 

06.Hide and Seek(後)(1/2)




「桂ちゃん、一体どこに……」
来た道を戻り、桂を追う沙耶。
時間とそれだけ桂が進んだ分を計算し、最短のルートを選び出しているつもりだったが
どこまで走っても妹の姿はおろか真の姿すら見当たらない。
真が桂を追ったということは、二人がどこかで接触してしまった可能性も高い。
だが、それは何よりも最悪な――絶対に避けたいパターンだった。
自分の判断ミスが、取り返しのつかない事態を生んでしまったのだ。軽率な策だった、と心の底で自らを責める。
「……」
必死に、暗闇の中にある妹の気配を探ろうとする。だが、それもすぐにノイズが走り失敗に終わってしまう。
他の誰でもない、真の気配が邪魔しているのだ。
獲物を前にして興奮を隠せない真の気配が周辺に満ちており、妹の気配を拾えない。
沙耶に残された手立ては、ただ走りつづけることだけだった。

真が再び桂に追いつくまでに、さほど時間はかからなかった。
血に濡れた腰まわりをさすりながら、真はゆらりゆらりと不安定な歩きを繰り返す。
その手には先ほどまで自らに刺さっていた桂のナイフ。
痛みを感じないわけはないのだが、どうやら人間より多少痛みに関しては鈍いらしく特に苦しむ様子はない。
「あは、あはは……見つかっちゃった、見つかっちゃったわねぇ……桂」
「……!」
しゃがみこんで動けなくなっている桂へと、少しずつ近づく。
「こんな傷をくれて、どうもありがとう。私……たくさんお礼がしたいの」
そして、壁際でちぢこまっていた桂を追い込んだのち、必要ないと判断したのか手に持っていたナイフを無造作に投げ捨てた。
空いた手で桂の髪をなでる。桂は両手で頭を抱える体勢をとっているため、真からはどんな表情なのかうかがえない。
「なぁに? おとなしくてつまんない。ほら、逃げたいなら逃げてもいいのに」
「……っ」
目の前にしゃがみこんだ真は、おもむろに数を数え始めた。
「いーち、にーぃ、さぁーん」
つまりそれは『この間に逃げてみろ』ということだった。だが、桂はまるでそれが聞こえていないかのようにぴくりとも動かない。
やがて、そのカウントが無意味ということに気付いたのか真の声が止んだ。
桂の手をひっぺがすようにして、掴み引っ張る。今度は多少の抵抗を見せた。
「苦しそうね。あんなに走れば苦しいに決まってるわよね」
「……」
「かわいそうに。あまりにもかわいそうだから、楽にしてあげましょうか……さぁ」
「は、離せッ!」
腕を振るようにして、真の手を引き剥がす桂。同時にそう遠くない位置まで顔を近づけていた真と目があった。
先ほどと変わらぬ、いや、それ以上の深い赤をたたえた瞳。
興奮のあまり歪む口元。明らかに人間とは違う、狂気としか言いようが無い表情。
「あらあら、かわいそう……かわいそう……あはは」
真が笑うと同時に、再びあの牙が見えた。
心臓の鼓動が一段と激しくなって、桂の思考はその瞬間完全に止まった。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴