小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Under the Rose

INDEX|2ページ/68ページ|

次のページ前のページ
 

01.双星児(1/4)



「――さぁ、ここまでよッ! おとなしくなさい!!」

通りのいい女の声が、夜闇に包まれた路地裏の空気を切り裂いた。
普段は人が通ることすらまれな場所。入り組み、奥ばっているために街灯の光もそこには入ってこない。
つまりは、真っ暗に近い。明かりがあるとすれば、建物の隙間から降り注ぐわずかな月光だけである。

そして、その暗闇の中には二つの人影。
一人はひどく焦った様子で目を泳がせている中年の男と、残る一人はその男を追い詰めるようなそぶりの
神経質そうな女。相手をひるませるには十分すぎるほどの視線をやりながら、じわじわとその距離を詰めていく。
「……っ」
対して、男は息を詰まらせながら絶えず視線をせわしなく動かしている。
その行為は『女と目を合わせてしまうと終わり』という理由もあるが、なんとかして逃げ道を探すという『最後の悪あがき』でもあった。
そして、男はその目的を簡単に達成した。
行き止まりかと思っていたが、よく見ると暗がりに細い道が伸びている。
道、とはいってもそれは建物と建物との間の隙間に過ぎず、小太りの男が通り抜けるには多少の無理があったが。
そんな小さなことを気にしている余裕は男にはない。

「くっ!」
タイミングを見計らい、素早くその隙間にもぐり込む。
「……!? 待ちなさいッ!」

慌てて駆け出した女だったが、その足は男が入っていった隙間の前でぴたりと止まった。
そのまま黙って、逃げていく男を見つめる。
追いかけるそぶりはない。
直後、唯一の明かりだった月の光が雲に遮られ、辺りは完全に真っ暗闇に包まれた。
闇に目が慣れているとはいえ、ただでさえ悪い視界がさらに悪くなる。

身体を無理矢理擦るように押し出しながら、男はついに隙間の終わりを見つけた。
はっきりとは見えないが、それなりに広い空間が見える。入り組んだ一帯が続いているこの場所。
女がこちらへ回り道をしているあいだに、ふりきれる可能性は高い。
男は確信にも近い希望を抱いて、身体をその狭い空間から押し出した。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴