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Under the Rose

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01.双星児(2/4)



「はぁい、そこまで」

男の目の前で響く、女の声。
先ほどの女のそれに似ている――が、幾分高い気もする。何より、こんなにのん気な喋りではなかったはずだ。
おそるおそる視線を上げる男。
首に刺さるか刺さらないかという絶妙な距離に、細身の剣にも似た刃物が突き立てられていた。
思わず胸に息が詰まり、呼吸のリズムが狂う。そのまま咳き込みそうになったが、咳き込んでしまえば間違いなくそれは男の首に刺さる。
なんとか押しとどめたものの、言葉を発することまでできそうになかった。

今、男の身体で自由なのは目くらいのもの。
ぱちぱちとまばたきを繰り返しながら、目の前の人影を凝視する男。
先ほどの神経質そうな女と同じ顔をしていた。ただ、こちらのほうが柔和で害のなさそうな表情に思える。
(現在進行形でその女の行っている挙動を見るに、その印象は外れているのだろうが)
そして、仏頂面な女は肩につかないショートカットだったが、こちらは腰に届くほどのストレートロング。
分身……いや、双子だろうか。
そんな事を考えているうちに、視界の外から別の人間が走ってくる音が聞こえた。
こんな場所をうろついている人間など、残るは一人しかいない。

「あっ、桂ちゃん! ねね、この人でよかったのかな?」
「勿論」
顔を動かせる状況ではないため、男からは駆けつけた人間の姿は見えない。
が、その声は先ほどの女そのものだった。
やがて、男の視界にもその人影が映り込む。――並んだ姿は、まさに双子としか言いようがなかった。
やっぱり表情は対照的なものだったのだが。

立ち尽くしている男を見やる仏頂面の女。もう一人に刃を突きつけさせたままで、淡々と言葉をつむぎはじめた。
「ダグラスという男、知ってるわね? その馬鹿に人間を売り飛ばしていたのは貴方で間違いないかしら?」
「し、知らない」
返事を聞くなり、問いかけた方の女がもう一人に視線で合図する。男の首元すれすれにあった刃が、ぐっと前に出た。
「っ!?」
反射的に避けたものの、それは首の皮をわずかにかすめた。痛みよりも不快感が先行し、全身に鳥肌が立つ。
「理解力がない人間は最低ね。私が聞いてるのよ、嘘をつけなんて言ってないわ! お分かり!?」
「あはは、おじさん。桂ちゃんを怒らせたらいいことないよ」
「……」

右を見れば緊張感のない笑みを浮かべ、こちらへと刃物を突きつける女。
左を見れば、不機嫌そうに眉を寄せ問いかける目つきの悪い女。
男に残されていた選択肢は、おとなしく口を割ることだけだった。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴