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Under the Rose

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05.Hide and Seek(前)(2/4)



そして、予想通り真は何の疑いも抱かないまま沙耶を追いかけた。
一定の距離をとってはいるが、真の足は相当速い。だが、その速度にある程度の波があるところを見るに
瞬発力こそあるものの持久力はいまいち持ち合わせていないらしい。
とはいえ、持久戦に持ち込めば人間である沙耶と桂の体力の方がほぼ間違いなく先に尽きるだろうが。

「(大丈夫かしら、姉さん)」
小さく裂けた手袋を見ながら、桂は一抹の不安を感じていた。
先日真が投げたカードはほんの挨拶代わりだったのかもしれないが、今回は投擲用のナイフ。
どこからどう見ても本気である。
つい心配になり、見えないと分かっていても通ってきた道を何度も振り返ってしまう。
何も見えない上、何も聞こえない。
自分は今どの辺りを走っているのだろうか。
目的地を見失うことはないが、この周辺を知り尽くしているわけでもない。
昼の姿を記憶していても、夜になってしまえばそれは全て闇に覆われてしまう。
月の光があるとはいえ、そんなものは飾り程度だ。
「(あいつ……絶対に捕まえてみせる)」
何度目かの振り向きの後に、またまっすぐ前を向く。次の曲がり角が見えてきた――その時。
背後から風を切る音がして。
硬くて冷たい何かが、桂の頬の真横を通り抜けた。

「――っ!?」
連続した曲がり道を抜け、そこではじめて沙耶は異変に気付いた。
追ってくる足音が聞こえないのだ。ほんの直前まで続いていたはずのそれは、今はまったく聞こえない。
それどころか気配一つしない。
さすがにおかしいと思い、罠である可能性を警戒しながら来た道を戻る。
途中、壁の隙間に何かが器用に刺さっていた。
刺さっていた、というよりは何者かが差し込んだのだろう。それは、沙耶にとって見覚えのあるもの。
「カード……」
そう。
先日、真がその手の内でもてあそびこちらに投げてきたカードと同じものだった。
カードを壁から抜く。
壁に刺さっていて、抜く前には見えなかった部分。
そこには、
「……」
大量の血が付着していた。赤黒く変色しているところをみるに、付着してから随分時間が経っている。
「桂ちゃんの……いや、そんな時間はなかったはず」
ということは、思い当たるのは一人。そして、血がついたカードをこうしてわざわざ残す意味。
沙耶の脳裏に、『手袋が切れただけ』といっていた桂の姿が浮かんだ。
あの時真が投擲したのは小型のナイフであり、カードではない。
だが、今手にしているカードのように、あの時のナイフに真の血液が付着していたという可能性は大いにある。
「しまった、桂ちゃん――!」
闇に向かって叫んだ声に、返事はなかった。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴