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Under the Rose

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04.Sunset(4/4)



「……姉さん、どうすればいい?」
「ん、あんまり気は乗らないけど」
真と距離を置き、ひそひそと会話を交わす二人。
「でも、あの調子だとあいつ自分の食欲を満たすことしか頭にないわ」
「……」
相手は一人、こちらは二人。だというのに、雰囲気や発言をみても真は余裕そのもの。
何か裏があるのか、はたまたそれほどの実力を持っているのか――どちらにせよ、遊びではすまないだろうと沙耶は思った。
もし相手が鬼、つまりは追う側になるというなら、それは『鬼ごっこ』ではなく『狩り』である。
ただ目の前にいる人間の血を吸うより、その人間を中途半端に逃がしじりじりと追い詰めそして最終的に吸血する方が
何倍も何十倍も吸血鬼にとっては『面白い』のだ。さしずめ食事前の軽い運動、といったところだろうか。
今こそおとなしいものの、一度本能的な部分にスイッチが入ってしまえば態度や反応が豹変することもあり得る。
人数では勝っていても、人間である以上はこちらがどう考えても不利なのだ。
警戒するに越したことはない。
「……別の案を、」
「はぁい、お姉さま方。お決まりかしら?」
「っ!?」
沙耶と桂の間に割り込むように、いつの間に近づいてきたのか真が顔を出した。『いつまでも待つ』といったものの
すぐに我慢が限界に達してしまったらしい。期待を含んだ様子で、返事を催促するかのように二人の顔を交互に見つめる。
「あ、ねーねー真くん。一つ聞きたいことがあるんだけど、鬼ごっこってどっちが鬼するの?」
「うふふ、それはねぇ。逃げるより追いかける方が楽しいから、私」
『やっぱり』という言葉を、出しかけたところであわてて心にしまう沙耶。
先ほどの考えは確信へと変わった。やはり、この吸血鬼が求めているのは『狩り』なのだ。
決して遊びたいわけでもなんでもない。まぁ、言ってしまえばある意味相手の中では遊びなのかもしれないが。
桂の血が吸いたいという要求を蹴られたために、このような若干遠まわしな形で再度望んできたのである。
つまり。
真は、必ず自分が鬼ごっこという仮の名がついた『勝負』に勝てるという自信があるのだ。
暗闇にも目がきくと言っていたし、吸血鬼ならば他の五感も鋭いはず。
この誘い、受けるべきではない。沙耶が口に出そうとしたが、それは隣にいた人物の発言に阻まれてしまう。
「……随分と迷ってるみたいね、桂。あなた、もしかして怖いの?」
「見当違いなことを軽軽しく口にしないで頂戴」
「ふふっ、心配しなくても手荒なことはしないわよ? それに、勝てばあなたの思い通りに動いてあげるというのに」
「……」
「発言は強気なのに、臆病だったなんてね……そんな調子でも成り立つなんて、ハンターっておかしな人たち」
「……こいつッ! これ以上私を侮辱するなッ!!」
我慢していた感情も、ついに限界だった。
『臆病』という言葉が決め手になったらしく、まとわりつく真とその言葉を手で乱暴に振り払う桂。
そして、まっすぐに真を指差し声を荒げて言った。
「上等よ! 逃げ切るどころか、逆にあんたを捕まえてあげるわッ!! そしてその時は」
「その時は、なにかしら?」
「私の前にひざまずきなさい。そして、その上で私の言うことに従いなさい」
「(あちゃー……)」
興奮するあまり周りが完全に見えていない桂。その姿を見て、出遅れてしまった沙耶は表情をゆがめ曇らせた。
勝算がないわけではない。
せめて、せめて自分の思考をよぎる悪い予感が当たらなければいいのだが。
「決定ね。早速――と言いたいところだけど、あいにくもうすぐ夜が明ける」
「こちらはいつでも構わないわ。後の事は貴方が好きなように決めて頂戴」
「そうね、じゃあ……次の満月の日が近いから、その夜はどう? 陽が落ちてから夜が明けるまで。範囲はこの一帯」
まるで事前に言う事を考えていたかのように、さらさらと要件を口にしていく真。
満月の晩を指定するというのは、視覚的にわかりやすいからというのもあるが、もう一つ理由があった。
それも吸血鬼の特徴に関係する。吸血鬼らが全力を発揮できるのは、満月の晩だけなのである。
反対に月が空に輝いていない時は、思うように力を発揮できない。
二人としては、その日が曇ってくれることを願うばかりだった。
「いいでしょう。……絶対に、貴方の思い通りにはさせない」
そう言い、桂は足元に落ちていたカードを拾う。少し前に、真が沙耶と桂に投げたうちの一枚。
それを真へと向け器用に投擲し返す。
まっすぐ飛びはしたものの速度は出ず、それは真の目の前で地面に落ちた。
くすくすと笑いながら、真はカードを静かに拾い上げる。
「久しぶりに退屈せずにすみそう。約束、忘れないでちょうだいね」
「真くんもね」
「……ふん。その余裕をへし折ってあげる」

満月の晩まで、あと数日。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴