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Under the Rose

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04.Sunset(2/4)



返事を確認するなり、部屋の端にもたれかかっている沙耶へと視線を送る穂村。
相手も桂の様子を気にしていたのか、すぐに穂村の視線に気付き、そのまま肩をすくめ首を横に振る。
『桂の判断に従う』という彼女特有のサインである。
『わかった』と視線を戻すと、そこには予想通り不機嫌そうな桂の姿。
「らしくもない。君はなにかその吸血鬼に恨みでもあるのか?」
「……蝕まれそうになったわ」
「それはそれは」
「今まで色々見てきたけれど、あんな無礼者は他にいないわよ。だから」
「その気持ちは尊重してやりたいが、これ以上一般人の犠牲が増えてはこの仕事も肩身が狭くてね……」
「……まったく、話の分からない男ねッ!」

「(よっぽど悔しかったんだなぁ……)」
ぼんやりと思索する沙耶をよそに、完全にループに陥った二人の話し合いはその後数時間に渡って続いた。

結局、そのやりとりは最終的に桂が折れる形となって落ち着いた。
穂村の機嫌を損ねれば、そこで二人の仕事に関連する繋がりが全て絶たれてしまう。
彼にかなりの恩があることは確かなのだ。
まぁ、そんな事だけで下がる桂ではなかったため
状況が変われば桂の要望通り『しょっぴく』ことも許可する、ということにはなった。
「まあ、私も『見張る』というところまでは譲歩するわ。けれど、『刺激を与えるな』というのはどういうことよッ!?」
「桂ちゃんの苦手なことのひとつだね」
「昨日のあいつに何を言われても笑顔でいろってことよ……考えるだけで吐き気がする」
そう言って、頭を抱える桂。彼女の中で、相手の第一印象はよっぽどよくなかったらしい。
その中には『いともたやすく相手の暗示に落ちてしまった』自分への憤りが混じっているようにも思える。
「話してみたら、意外といい人かもしれないじゃない」
「……そうかしら。姉さんはどう思った?」
「どうって?」
「あいつを見て、どう思ったのかって」
「……ああ」
そうだねぇ、と考え込む沙耶。口元に手を当て、記憶をたぐる表情はだんだん真剣なものになっていく。
「……ね、姉さん?」
それほど深く思いつめるほどの問いかけではなかったはず。
まなざしを厳しくしてうつむく沙耶に、桂はおそるおそる声をかける。
返事はなかった。
先ほどの問いの答えを探しているというよりは、別の何かに意識をやっているようなそぶり。
「うん。髪の毛きれいだったね、あの人」
「か……髪の毛?」
「きっとわたしが桂ちゃんにしてもらってるみたいに、ちゃんと手入れしてもらってるんだね」
「そ、そうかもね……」
それ以上の言葉が思いつかず、ひきつった笑顔を浮かべる桂。

「(あの子の第一印象か……覚えて、ないな)」
視線を迷わせながら、沙耶は誰にも聞こえない呟きを心中漏らした。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴