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Under the Rose

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04.Sunset(1/4)



「忌々しい、あぁ忌々しい」
「うん、今ので百回目……というか怖いよ、桂ちゃん」
もうカウントしないよ、とため息をついた沙耶を無視して、桂はいてもたってもいられないような雰囲気で
せかせかと部屋の中を動き回る。どうやら、感情が身体に出てしまうタイプらしい。
そんな彼女の表情は、いかにも納得できないことがあるといった仏頂面。
理由は一つしかなかった。
「全てあいつの所為なのよ、あいつの!」
「誰?」
「誰って、穂村に決まってるでしょう!? 心底呆れて言葉も出ないわッ!!」
そのわりには思いっきり声を荒げて騒ぎたてている。両腕のジェスチャーも、心なしかいつもより激しい。
ちなみに桂が言う『穂村』というのは先日二人が会っていた車椅子の青年の名前である。
ハンターという仕事における上司、という表現が一番正しいのだろうが
実際は『情報屋とその客』という方がふさわしい。
穂村という青年が手に入れた情報を二人に流し、二人はそれを元に吸血鬼やそれに関わる者を探す。
余談になるが、二人の他にもそのシステムを利用している者は少なからずいるようだ。

時は、数時間ほど遡る。
いつもの狭い部屋で向かい合い会話を交わしていた穂村と桂。
最初は淡々と会話だけが進んでいたが、いつしか詰まり気味になりそして、あるタイミングで突然桂が机を叩き立ち上がった。
「ふざけないでッ! あんな吸血鬼を、見張れですって? 害がないのならともかく、あるんだからさっさとしょっぴいてしまえばいいじゃないの!!」
声を張り上げる桂に対して、『まぁまぁ』となだめるようにして手のひらを向ける穂村。
「そうしたいのは山々なんだけどね。昨夜、君も感じたんだろう? 一帯はあの吸血鬼の力で満ちている」
「……それで?」
「あれがね、クセモノなんだよ。最近この周辺で悪さをする吸血鬼が増えてきている。まぁ、今までどいつもこいつも隠れてたんだろうがね。それが一気に表出た……どういうことかわかるかな、桂?」
「知る必要もないわよそんな事」
「それが、君たちに関係ないということでもないんだな。まあいいや。かいつまんだところだけ話そう」
穂村が始めた話は、つまりはこういうことだった。
二人が昨日見つけた吸血鬼。その吸血鬼は自身がテリトリーとする一帯に目に見えない――気配にも似た力を漂わせており
その力に呼応するようにして、街に隠れていたまったく関係のない吸血鬼たちが湧き上がっている。
ただでさえ相手方の精神が昂ぶっている時。
その原因となっている吸血鬼の力は未知数であり、下手に刺激するとどうなるかわからない。
だからといって野放しにはできない。そこで、その吸血鬼と唯一接触できた二人に、事が落ち着くまで『見張り』をしていて欲しい。
「かいつまんだ割には長いわね」
「すまないね、俺は口下手なんだ。……もちろんタダ働きとはいわないが、どうかな?」
「嫌よ」
「嫌かい」
「嫌」


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴