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Under the Rose

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03.鷹と蛇/その1(3/4)



「わあ。おにーさん、髪の毛きれいだね」
「……ねえ、さん?」
その瞬間、桂の耳にも聞き慣れた声がはっきりと届いた。
途端に内にあった得体のしれないものはするすると退いていく。まるで最初から何もなかったかのように
意識が現実へと引き戻されていく。
「……そうかしら」
黒い髪をある意味図々しいともいえるくらいに触る沙耶に、複雑な視線をやる。
払いのけることこそしないものの、その態度には明らかに多少の嫌悪が混じっていた。
「さわさわ」
「……」
一瞬だけ口の端を歪めたあと、その人あらざる者は桂のいる方向へと振り向いた。
いや、正確には振り向こうとして中途半端な角度で動きを止めた。
首元には冷たい刃物の感触。
そして、わずかではあるが首を流れ落ちる自身の血の匂い。
「止まりなさい」
「止まってるわ」
ナイフを首元につきつけたまま、低い声で制止を求める桂。今更人が通ろうが通らまいが、彼女には関係なかった。
「……」
「よくも私の心を侵しかけてくれたわね」
「……あなた、私のことがわかるのね」
「わかってたまるものですか」
「……私が見えるのね」
「お黙り」
微妙に噛み合わない二人の会話。
そんなそばで、沙耶はぼんやりとその吸血鬼を見つめていた。
誰もその視線には気付かない。
「よく聞きなさい。私達は貴方のような人外を狩る存在……ハンターよ」
「ふぅん」
「おとなしく私達についてきなさい。色々聞かせてもらう話がある」
「……」
吸血鬼は、聞くなり考え込むように黙ってしまう。
選択させるところまではうまくいったものの、桂はもしもの時のことを考えていた。
目の前にいる吸血鬼が抵抗を見せた時のことを。

今手にしているナイフでは、どんなに力を込めていい角度に入ったとしても骨に辿り着くのが精一杯。
桂自身、そんなおもちゃも同然のもので脅しになるとは思っていなかった。
だが、今は一対一ではない。
そばには、一見頼りなさそうだが桂にとっては一番に頼れる沙耶の存在がある。
もし自分がその刃で相手に傷をつけられなかったとしても、その時にできる隙をついて沙耶が十分行動を起こせる。

そして、そう長くもない沈黙の後に吸血鬼が口を開いた。


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴