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茅山道士 かんざし1

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「いや、それがそうでもないんですよ。私があんまりさぼるもので、皆が黙って片付けてくれるんです。それはいいんですが、することがなくて…白麒麟、疎外感って感じたことありませんか。」
「ないことはありませんが…。」
「そうだ。うちへ遊びに来ませんか。末の弟たちも暇を持て余している筈ですから、みんなで武術の鍛練など?」
「おお、それはいいですね。」
青竜王の誘いに、青麒麟はのった。でも、どちらも立ち上がる様子はない。別に慌てて行動する必要もないからだ。そんな和やかで退屈な茶会の席に、慌てふためいた仙女が飛び込んできた。
「まあ、よかった。どこかに出かけていたらと心配しましたわ。角端、急ぎのお願いがありますの。麟のところへ行って下さい。急いで!」
 一息で仙女が言葉を吐き出したので、一同対処に一瞬遅れたが、黒麒麟は、その中で一番に立上がり仙女と共に表へ駆け出した。
「お声をかける暇もないなあ。」
事情の分からぬ青竜王は、口調はのんびりしているが、素早い動作でその後を追った。残るは、白麒麟と青麒麟である。
「なんだ。なんだ。索明兄。」
「話は後だ。私も少々急ぐとするよ。おまえは関係ないから、こなくてよいぞ。」
「何を言う。こんな退屈な場所においてけぼりはないぞ。」
 結局二人も後を追い、茶会の席には誰もいなくなった。
 館の外で仙女が、かんざしを空にほおり投げると、かんざしはキラキラと輝いて先程の小鳥の姿に戻って羽ばたいた。
「麟のもとへお戻りなさい。」
王夫人が命令すると、小鳥は人界目指して飛び去った。本来の麒麟姿になった角端が、王夫人を背にして後を駆ける。その後を、青竜王が人型のままふわりとスピードを感じさせずに飛び上がる。さらに、遅れた麒麟たちが続く。
「青竜王殿はいいな。人型のままで空を駆けられる。」
「ハハハハ…でも、竜の姿は目立ってしかたないのでね。」
 竜王は元の姿に戻ると、一日に千里駆ける黒麒麟よりも早く空を駆けられるのだが、目につきやすいのが難点である。
「どうして人界とわかられたのですか。」
 横を駆けながら、白麒麟は不思議そうに尋ねた。麟のことを知っているのは、自分と王夫人それに角端だけでのはずである。
「麟と言えば、あのおちゃらけ仙人のことでしょう? そんな話は聞いておりますよ。その子のことなら人界しかありません。まさか、冥界とはおっしゃいませんよね。索明殿。」
「ご存じでしたか。」
「はい、十年前の話だけは。どうやら、あなたがたは続きをご存じのようですね。」
「私は知りませんよ。」
 青麒麟は不服そうに二人を追い越した。そこへ、いきなり横から飛び出たものがあった。青麒麟は慌てて止まったが、そのものとぶつかりそうになって怒った。
「何だ! あっ!!」
 驚嘆の声をあげ、しずしずと後ろに下がらざるをえなかった。同じく急停止した二人も前に立ちはだかったものが、誰かわかって驚いた。王夫人の母であり、仙界の仙女を全て束ねる西王母その人であった。
「何があったかは、存じませんが、麒麟と竜が大勢で大急ぎでどこへ行かれます。青竜王殿。」
 名指しで説明を求められた竜族の若長は困ってしまった。あまりよく事情を知らずに暇潰しにしゃしゃり出たとは、この相手に言える説明ではない。
「いえ、あの王夫人殿が、あのおちゃ……失礼、西王子の身に、何がことが起きたようで角端をお供にされて人界へ下られたので……」 この後、「事情はよくわかりません。」と付け足した。母親のような微笑を青竜王に投げかけてから、白麒麟に目で説明を命じた。「以前、王夫人様が、麟にお渡しになったかんざしが戻ってきたので、麟の身を案じて王夫人様が慌てて人界に下られたのです。」
 三人が立ち止まってしまったため、黒麒麟の姿は雲間に消えてしまい、後は追えなくなってしまった。しばしの沈黙の後、仙界の女主人は溜め息をひとつついて、口を開いた。
「わかりました。索明。人界へ行って角端を謠池の館へ誘導しなさい。」
 西母王が自分のかんざしをひとつ引き抜いて空中に放り投げると、それは王夫人の小鳥よりも大きい雉となって空を舞った。
「王夫人を追いかけなさい。行きなさい。索明。」
 白麒麟は命令に従い、先を行く雉を追い駆けた。それを確かめてから、向きをかえた西王母に青竜王は声をかけた。
「西王母様。わたくしも同行してよろしいですか。」
「よろしいですが、決して竜におなりあそばしませんように。」
「わかっております。」
 白麒麟と青竜王が人界に降りて行った。残るは、青麒麟である。自分も同じ様に許可が頂けると信じていた青麒麟は、急いで口を開いた。
「西王母様。」
「おまえは別に用事があります。館の上元に声をかけてきておくれ。『麟が来ている。』 と、言えばわかります。」
「私も行ってはいけませんか。王母様。ひとりだけおいてけぼりは、仲間外れにされたようで寂しいのですが…。」
 不満を述べる青麒麟に西王母は、だだっ子をあやすように優しく諭した。
「おまえは、麟のことを知らぬでしょう。関係ないものが出て行くことはありません。人界のものを仙界へ呼び寄せるのは、出来れば皆に知られぬほうがよいのです。大袈裟にならないようにね。さあ、わたくしのお願いを聞いてください。青麒麟。」
 仙界の女主人は、麒麟の背を撫でて向きを変えさせた。それでも、ぶつぶつと文句を言う青麒麟の口をポンと叩いて黙らせて館へ走らせた。わが娘が人界の麟に生死に関わる危害を加えてしまったことを西王母は、すでに知っていた。仙界のものがむやみに人界のものに手を貸すことは決して良い結果ばかりを生まない。……情けが仇になりましたね。王夫人。…… 心の底で自分の娘を案じ、また、元自分の子供の生死も心配する仙界の女主人の瞳はくぐもっていた。青麒麟が館に戻った後も、まだずっと人界のほうを向いて西王母は佇んでいた。



 ゴンッと大きな衝撃が倒れている道士の意識を呼び覚ました。ズキズキと右半身が痛み、叫び声をあげた。のろのろと見上げると、先ほどの男が睨み付けていた。どうやら、蹴られたらしい。
「おい!! さっきのはなんだ? 鳥になって飛んで行ったぞ。本物はどこだ?! 」
 どうやら道士を叩き起こす前に、あらかた探したらしく衣服は引きちぎられ、側には麟が肩からかけていた布の袋の中身がぶちまけられていた。
…うっとおしい…と、道士は心の中で呟きながら静かに深呼吸した。相手はまだ大声で何やらわめき散らしているが、ほとんど耳に入らない。このままだと死んでしまうかなあ…と、そればかりが頭についているが、それとは逆に、このまま永遠に眠ってしまったら、どんなにか楽だろうという考えが脳裏をかすめる。両極の考えが、ぐるぐると頭を回っている。そこへ、もう一度衝撃が襲い、バキバキと肩に残った矢が再び音をさせた。激痛が相手の存在を知らせる。「おい、聞いてんのか。別れた相棒はどこへ向かった。」
 男はさらに再度、麟を蹴飛ばした。呻きながら、道士は現実に引き戻された。
「だから……あれはああいうものだ……もう誰も持っていない。」「では、もう少し痛い思いをしてみるといい。そうすれば、持っている奴を思い出す。」
作品名:茅山道士 かんざし1 作家名:篠義