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欠如した世界の果てで

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 時は少し遡る。
 雄二が樹海をさ迷っていた同時刻、彼―抱義勝弥もさ迷っていた。

 静かに自分が草を踏む音と、時々聞こえる野鳥の鳴き声。ジットリと肌に纏わり付く、沈黙の不安と恐怖。
 深く薄暗い中を歩くそのうち、このまま出れないのではという考えが過ぎった。
 一度でもそういうことが浮かぶと、更にそこから連鎖し、いつか野垂れ死ぬのではないか、獣か何かに襲われて死ぬのではないか等と、後ろ向きな考えばかりが思い浮かんで来る。
 もはや、出られるという可能性はいつの間にか完全否定してしまっていた。
 恐怖心だけが広がっていき、ついにはカクンと膝を折って座り込んでしまう。
(ぅ……死ぬ前に、もう一度だけ―ホカ〇カ亭の弁当が食いたかった……)
 あそこの弁当、超旨かったなーとかくだらないことを考えてみても、気分は晴れなかった。
 だが、それは恐怖心とは別の何か。
 その原因は、蓮斗と―
「雄二」
 その名前を口にすることで、ますます頭の中の霧が濃くなったようだった。
 この霧は、いつ頃からだったか。
あいつを知った時、その瞬間からかもしれない。

 雄二と初めて出会ったのは、中学二年になって同じクラスになった朝。
 だが、俺は一年生の頃から知っていて、ストーカーのように後をつけることもあった。
 俺は、"霧島雄二"に惚れていた。
 惹かれたのは、自分自身に忠実になれるその性格と、その反対に、自分自身が暗く沈んだ状態であろうとそんなことは微塵も感じさせずに周りを明るい気分にさせることができる気遣いの、釣り合い。
 自分とは正反対だ、そう思った。
 相手の反応を常にうかがっては必ず自己を後にし、そのわりには、我が儘に自分の感情に他者を巻き込む。
 だから、始めは憧れのような感情だったのだ。
ただ純粋な憧れで、どうしたらそうなれるのか、知りたかっただけなのだ。
 けれど、そのうちに雄二のことを見ていると何と言うか、胸がモヤモヤしているようになったりして。
 これが、"好き"という感情だった。
 それからは、雄二が他の男子と話している時は勿論、女子にさえ嫉妬する始末。
「あいつがゲイで俺もゲイ…、おまけに蓮斗もゲイってな…」
 ため息混じりに呟いてみる。
 そう。雄二がゲイなのは…、反応を見ていればまるわかりなのだが、実は蓮斗もゲイらしい。
まあ、雄二だけ一途に好きになっているだけだから、ゲイとは―、言うのか。
 俺は、誰彼構わず男好きってわけじゃなく、かといって蓮斗みたいに雄二一途ってほどでもなく…、見た目でかなり判断する、いわゆる面食いとか言うのか?
確かにカッコイイなと思う奴も時々いるが、やはり雄二のように中身までいい奴はそういなかった。 ―ってか、俺ってここまでゲイだったけ?
 …やっぱり、気にするまいとしても、心の隅では気にしていたのだろうか。
 今、俺が一人でいるってことは、つまり、雄二と蓮斗がいないわけで、そうなると、もしかしたら二人きりになっているかもしれなくて、いい感じになっちゃってたりするかもしれなくて。
「…ったく…何を考えてるんだ…」
 二人でいるならその分、危険が減ると言うのに、それを自分のヤキモチがために一人でいてほしいとか―、最低だな、俺は。

―本当に最低だね

「ッ……!?」
 フッと声が聞こえたような気がした。
素早く身構え、辺りを見回す。
 だが、人の気配はどこにもなく、声も最初から発せられなかったかのように思えた。
 空耳かと警戒を緩め、

―探しても無駄だよ
―だって…、僕は君自身なんだから

 確実に、空耳ではなかった。
 不確かな声だったはずが、最後の一文だけは頭の中でしっかりと反響し、離れない。
 声はさらに続く。

―僕には君の気持ちがよくわかるよ
―取られたくないんだろう?
―彼、雄二を…、そうだろう?

「雄二を…取られたくな、い…?」
 まるでその通りだった。
 自問するように呟いた声は脳裏にこびりついたように残り、怪しげな声と共鳴する―
「……阿呆らしい」
わけがねー。
 いや、俺、そういうオカルトとかには全く興味ないし。
ってか、現実主義者だし。

―え? あ、いや、ちょっと

「さぁて、パパッと帰っちゃいますかー」
 そう自分に呟いて、再び歩きだす。
 あー、何か、へたり込んでたことが馬鹿みたいだ。
何つーか、後ろ向きに考えたところで何も始まんないし。
 あ、でも、道わかんねぇや。

―ま、待て! 道なら僕が後で教えるから、今は話を聞いて

「あのさぁ、本当に俺自身だとか言うなら、何で道がわかるんだよ?」
 特に誰へ向けてでもないが、一応ツッコミを入れておく。
 だって、暇だし。

―へ…? あ、いや、だからその、わかるからわかるのであって、いや、だからえっと……って、歩き出すなぁぁぁぁあ!!
―(ええい、こうなったら最後の手段だ!)
―聞いて驚け、僕こそはかの大悪魔サタンの息子、ザタンであるぞ!

「…………」
 沈黙。
 空耳よ。もう、返す言葉もないんだが。
 何だよ<ザタン>って。「サ」が「ザ」になっただけかよ。
父親としてネーミングセンスなさすぎだろ、サタン。
…そもそも、何次元の話だよ。
二次元? ああそうか。これは空想か。よし、納得。
 いや、でもさ、一応言っていいよな。
暇だし。そう、暇だから。
 心の底から一言。
「………失せろ」
作品名:欠如した世界の果てで 作家名:アミty