ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
「ぼくなんか、ぼくなんか、ぼくなんかーーーー、ビールだもーーーーん。エエエーーン。エエエーーン。・・・・・ビールだもーーーーん・」
『疲れる・・』DJがこぼした。
「ハイ、ですーーー。ただいまーー」
居酒屋のホール係りじゃないんだから、ミスター・ドラゴンフィストの名が泣きますよ。
そして、その後の顛末。
「あっ、そーーー。ところで今のセリフ、あたしの目を見て、もう一度言ってみなさいよ!ミナお・や・ぶ・んっ」
「ゲッ。まっずーーー。あたし、イマ、なんか言った?あれ?おぼえてないわーーー?ここはどこ?北はどっち?西って南の反対?あたしは誰?・・・」
「ヌアアーーんだとーーーー?ミナ?おんどりゃーーー、あたいをバカにしとんのかーー。そんなもん知るカーーーー。こっちが教えてほしいわい。ゲップ。ハクゾーーーー。こらーー。」
知らないんですか?吐かないで下さいよ。
ミドリさんは本領を発揮しはじめました。
ミナは相変わらずでした。
隣で泣き出すケリー。
そして、意味無く笑い転げているロイトゥ。
もう、滅茶苦茶です。
日本中、どこにでもある風景と言えばそうなんですが。
だいぶ酔いも回ってきて、お行儀の良い彼らでも、さすがに疲れ果て、思い思いに眠りについた。
早いはなし、結局仲良く酔いつぶれました。
チャン、チャン。
ドラゴンフィスト始まって以来、初めてのにぎやかな夜は、静かな?イビキ達と共に明けていった。
嵐
幾つもの山積みされたロボット専用のスクラップ置き場の片隅に小さな工場と言うにはあまりに粗末なロボット修理小屋があった。ぼろぼろの木製看板には、ロボットリペアショップと書いてあり、本当に修理をしているが、しかしそれは表向きで、本当の役割は不審者を追い払うのが目的に作られた、入り口の一つに過ぎない。その地下には巨大な研究所を備えた実験施設と自動化された工場が隠されていた。
デスプはその小屋の上空にピタリと止まった。どう控えめに見てもガラクタの寄せ集めにしか見えない一体のロボットが小屋から出てきた。
「なんか用かね、ダンナ。」
デスプを見上げて尋ねた。
デスプは早くゲートを開けろと言わんばかりに、「ゴン爺さん、老いぼれるには、千年早いぜ、さっさと入れてくれ。」
その声を聞いてゴン爺さんは「フオッ、フオッ、フオッ」と笑って続けた。
「この道楽息子が、どの面下げて帰って来たかと思えば、ずいぶんと貧相なナリをしてるじゃないか。まあいい、腕がなると言うものさ。」
言い終えると同時にスクラップの山の一つの中央が割れ、テーブルが、せり出して来た。その上にデスプが載ると、透明の半円状のシールドで囲われた。
テーブルは下がり始め、スクラップに埋もれるようにしてデスプは呑み込まれて行った。デスプが消えた後には、元通りのスクラップの山が出来上がっていた。同時にゴン爺さんの姿も消えていた。
デスプはこの施設のメインプログラムと一体化していた。一体化と言っても、この施設をより効率的にデスプが稼動させる為のものでデスプはあくまで、独立した意思を維持出来るものであった。
ゴン爺さんのとなりに若い精悍な顔付きのアンドロイドが居た、アンドロイドと言っても見た目は人間と見分けが付かない。
彼ががデスプである。
この施設内に居る時はこの姿が適しているらしく、このアンドロイドは施設の全コンピュータと交信が可能で、デスプは本来人間の特性をベースに作られていた為、デスプ的には違和感無くスイッチ出来ている。
それにしても、かなり重装備なコンバットスーツに身を包んでいた。別にこれから戦いに行く訳ではないのだが。
これが彼にとっての普段着だった。
つまり、戦う為だけに創り出されたと言うことだ。
ボディは、機能的でスタイリッシュだが、100以上の様々な銃や特殊ナイフが仕込まれている。何処のどの部分に隠されているのかはデスプにしか分からない。このボディを着ていれば、3千体のコンバットアーミーと対峙しても余裕であろう。
物騒なこと、はなはだしいたたずまいにゴン爺さんが冷やかしでデスプに言ったさ。
「デスプそいつの着心地はどうだい、エイリアン退治にはうってつけじゃーないか。地球を救ってヒーローにでもなるつもりか?」
別に付き合って減らず口をたたかなくても良いのだが、そう言う性分ではないので、デスプは言い返した。
「色々な場面で、装着していないと欠点や改良点が分からないものさ、全てこれ修行。しょうも無い爺さんと無駄口たたくのも、これまた修行さ。」
こいつは一本取られた。と思い、こらえたはずの笑いが不覚にも漏れてしまい咳払いでごまかした。
気を取り戻して、本題に移った。
「今回のマシンはどのような目的と設定で使用する。」
ゴン爺さんに答えるように、デスプはセンターモニターにマシンを映し出し、それをイメージどおりにアウトラインのデザインをしていった。
デスプはこの施設と一体化しているので、必要なプログラムを呼び出し、戦闘能力やどのような武器を使用するのか、追加機能の選定など細微に渡り、膨大な情報をデータにして注文を付けた。
後はゴン爺さんの職人魂の腕の見せ所である。
200台以上のモニター画面で一斉にディテールの設計と分析を繰り返しゴン爺さんの総指揮のもと、目まぐるしく変貌していった。
メインモニターに映るマシンはやがて大きな変化は見られなくなった。ベースマシンの原型が分からないほどの変化である。
しかしデスプは次の注文を付けた。するとまったく別物のマシンが出来上がった。
また次の注文を付けた。一見無駄に思える作業であるが実は、綿密な計算の結果正常進化させる為のプロセスなのである。
人間はいきなり人間に進化した訳じゃない。最初は微生物で魚になり、両生類を経て、ねずみのような小さなほ乳類に進化して行ったのと同じことである。そうではあるが、産みの苦しみは避けようが無く、戦いのような激しいやり取りも何度もあり、やがて二人の納得の行くものが映し出された。
デスプが感嘆の声を上げた。
ゴン爺さんが唸った。
デスプは待ちどうしそうにたずねた。
「ゴン爺さんどのぐらいかかる。」
ゴン爺さんは又しても唸った。
「そうさなー、超特急で急いで3日といったところかな。」と言い自分の腕を叩いて見せた。
3日もあれば完成できる。といった自信の現れであろう。
デスプは十日は掛かるだろうと踏んでいた。
「それじゃー7日で頼むよ、急がれて、手抜きされてもこまるからな。」
ゴン爺さんはデスプがそう言ってくると読んでいたのか、「任せておけ、お前ごときに文句は言わせん。7日間、昼寝でもしていろ。」
ゴン爺さんは、背を向け去って行った。さっそく取り掛かるつもりらしい。
デスプはゴン爺さんの言う通り、昼寝をする気など毛頭も無かった。シュミレーションルームで新マシンを様々な状況下で操縦した。そしてその時のデータを蓄積していった。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三