ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
デスプは単に感で操縦していたり、データだけでマシンコントロールしたりはしない。不確定要素を織り込みながら、より確実な、選択をしている。傍目には、乱暴で、粗野で、気ままで無駄に動いているように見えるがその裏では、緻密な計算がなされていた。
デスプがシュミレーションルームに入って約束の7日目になった。デスプは無数のコードに繋がれていた。膨大なデータ処理を要求するシミュレーションにおいては、この方が格段に処理速度を向上することが出来るのである。
ゴン爺さんは出来立てほやほやのマシンをデスプに見せようと5番スタジオに呼んだ。デスプに接続されていたコードが一斉に生き物のように元のさやに納まり見えなくなった。するとこの部屋がピラミッドのような形をしていたことが判った。
5番スタジオに到着すると、ゴン爺さんと銀色に輝く怪物が並んでデスプを向かえた。スタンディングモードの為、恐竜に見えなくも無い。空を飛ぶ時は何段階か変形を繰り返し、状況に合った形態で飛行をするのである。デスプの第一声は、「モニターから抜け出すと、やはり迫力が違うなー、ユリスは眉をしかめるだろうが俺は気に入った。」
ゴン爺さんも会心の出来だったので鼻高々で言った。
「まーお前がマウントするには勿体無いが、わしには遊んでいる暇が無いから、しかたない。こいつはお前に任せてやろう。」
ゴン爺さんの相変わらずの毒舌には今回はなんの反応もせずにデスプはその美しさに感動していた。触れてみたり色々な角度から眺めたりしていた。自分がマウントしてしまえば、もう自分そのものになるので、こんな感傷的な感情は湧かなくなるのである。
ゴン爺さんはかまってもらえないと知るや、つまらなそうにして、スタジオから出て行った。
デスプの満足は顔を見れば判るので、それ以上語る必要はないのである。
デスプは仕上げのデザインペイントを一癖も二癖もあるアートプログラム達と共同で考案にはいった。と言うより、全員でお互いに罵り合いと、我の押し通し合戦で収集がつかない状況が続いた。
予想通り。
しかたがないので、ゴン爺さんまで仲裁に入る始末である。
やっとのことで決まると、それをマシンに施す為、ペイントルームにマシンは移動された。
デスプが予想していた、十日で仕上がるだろうと思っていた日にちを既に1週間もオーバーしていた。
ペイントデザインに何でこんなに時間を取られるんだ?
デスプは怒り狂っていた。
「何なんだこいつ等は、全く、良識という物が無い奴らだ。」と毒ついた。
一番こだわっていた自分の事は棚上げにしていることは言うまでも無い。
デスプ発進
ミナは仕事でチャップと2人で情報収集に奔走していた。何だかんだ言っても、足で調べ現場に張り付くしか生きた情報は得られないものである。それがミナの役割であった。
ターゲットがあるビルから出てきた。クルーザーで出かけるようなので、ミナはエアースクーターで気付かれないように尾行した。
今回のオーダーは、ターゲットの行動をクライアントに逐次報告するだけのものであった。
気楽な任務だ。
事件性は薄いと思っていてタカをくくっていたが、それが大きな誤算であった。
市街地から出て10分ほどしてアウトライナーと言う航路にはいった所でクライアントから連絡が入った。尾行を中止するようにとのことであった。
ミナはユーターンする為に舵を切ろうと思った瞬間ターゲットのクルーザーが爆発した。何者かが待ち伏せて攻撃を加えたのだと判ったが、爆発で飛んでくる破片をよけるのに必死であった。
「チャップ、全速ブッチギリよ。」
エアースクーターが一瞬で火の玉となった。
とても、爆風ごときではおいつけない。
「ごらんあそばせ。これが本当のブッチギリよ。」
恐れ入りました。
被害を受けずに体勢を立て直して、何処から攻撃して来たのかを確認する為に急停止した。
そしてミナ自信も狙われていて、既にロックされていると言うことに気付いた。
緊急アラームがけたたましく騒いだ。
『なぜ?あたしが?』
その時既に、3発の誘導弾が発射されていた。
「畜生、逃げ切れない。」と感じたとき、ミナの目の前で3発の誘導弾が3発ともほとんど同時に爆破された。
その後も狂ったように様々な種類の弾丸が発射されたが、それらはミナを狙ったものではなかった。
ミナのすぐ後方の上空にいつの間にか見たことも無いコンバットファイターが居た。そのコンバットファイターを攻撃していた。
ミナはエアースクーターを急降下させ退避しつつ戦況を見届けることにした。
ミナのエアースクーターには、対抗する装備を備えていない。
犯人は改造された3台のガンホークでマフィアが良く用いるものであった。3台が集中砲火している先は遥か上空ではあるが攻撃を受けているにもかかわらず、いぜん微動だしなかった。
しばらくは砲火が続いたが、玉が切れたのか、歯が立たないと判断したのだろう。ガンホークは退散し始めた。
しかし退散する為には、方向転回せなばならない。方向転回を開始した順に、次々にガンホークはこっぱ微塵に爆破された。
ミナの目ではどのような攻撃によって爆破されたのか分からなかったが、とにかくガンホークは木っ端みじんに消えてなくなった。
コンバットファイターは、ゆっくりではあるが降下してきた。先ほどのコンバットファイターの姿はじょじょにエアープレーンの形状になっていった。
変形する前のコンバットファイターの姿の時から、ミナには既にデスプであると判った。姿かたちがどうであれ、物の本質を見抜く能力がミナには備わっていた。
下から見るとボディーには読みとれないほど崩されているDSPのロゴが描かれていた。ロゴには2匹の空想上の怪物がその文字に絡みつくようにしてポーズを取っていた。その下には小さく、デスペラード スカイ パス とこれまた形が崩されて読めない字で書かれている。
略してDSP(デスプ)だ。
制作者の意図を理解するのに苦しむが、デスプは笑いをとりたいんだろうと言うぐらいにしか認識してはいない。
黒と銀が基調になっており、全体としてはシックにまとめられている。カラーだけはデスプの意向が通った唯一の案件であった。これだけでも通すのに大変な労力を費やした。
ミナはデスプであると直感していたがデスプを無視をすることに決め込んだ。デスプがすぐそばまで下りてきて、相変わらずの口調で話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、ミルクでも俺と飲まないかい?ケーキにお菓子、飴玉だってあるぜ。」
ミナはあきれて話すのもためらったが、言わずにはいられないようだ。
「デスプそんなんじゃ、ジャーパンの田舎娘だって乗ってこないわよ。」
デスプを無視する作戦だったが相手の方が一枚上手だったようだ。
「まーいいから乗れよ、ミナをくどくにゃこんなもんだろ。スクーターをオートにしてさっさと乗り込め、ずらからないと、やばいことになる。」
デスプはミナとチャップがコックピットに乗り移るや、スクーターをアームでしっかり固定し瞬間移動したかのようにその場所から消え去った。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三