ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
デスプはこれでにぎやかになることだけは確かだなと思った。
これだけ騒いでいるのに、他の3人のことなど、すっかり忘れていたミナだが、ユリスが『彼らは?』と聞いたのであわてて、3人を紹介した。
「ロイトゥにケリーにミドリよ、引越しの手伝いに来てくれたの」やけに簡単だ。
「ロイトゥです」
「ケリーっす」
「ミドリちゃんでーーーす。よろしね、ユリス」
「なによ、ミドリ?そのハートマークのひとみは?」
「いいじゃない。あんたのモンと決まった訳じゃなし」
さっきは祝福してたはずですが?ミドリさん。
「・・・・・・・・・・」
ユリスはもうすっかり回復して大目に踏んでも20歳にしか見えない外観に戻っていた。ミナにはまだミイラの時のユリスの印象が強いこともありその激変に慣れることはなかった。
実際にもユリスは若返っていた。
ミナと初めて会った時はたぶんミナの印象では三十代後半から40歳ぐらいであった。
しかし今はミナと同世代にしか見えない。見た目は気にしないミナではあったが、さすがにこの変化にはついて行けない。しかし姿かたちがどのように変わろうともユリス以外の何者でも無いので、ミナにとってはミイラよりましかな?っていう程度の出来事でしかなかった。
「アレー?ユリスしばらく見ない内にまた若返っていない?どうでもいいけど、この調子で若返ったら、あなたあと1週間で赤ちゃんよ」
「いくらなんでもこれ以上は若返らないと思うよ。姿には気が反映されている。君に合わせた結果さ。ってことは、まだ若くなるってことだな。小学生程度まで」
「あたしは、小学生か?」
「まっ、あたまの中は、確かにそうね。」
「ミドリ。あたしを裏切る気?」
「なによ、ミナあたしを脅す気?」
「よせよ、二人とも、小学生レベルの喧嘩は。」
ロイトゥが仲介に入った。
「だまれ、ロイトゥ」
ミナとミドリが二人同時にハモッタ。
「・・・・・・・」
ユリスはハチャメチャになった状況を打開すべく立ち上がった。
「いやーーー、はじめましてユリスです。皆さんが知り得ることは、噂を含めて、全ては事実です。でも私は友人であるミナのお友達に危害を加えるほどの悪人ではありません。今日はミナに振り回されてお疲れでしょう。後はロボット達がやりますので、上の庭園でくつろいで下さい、すぐにお茶を用意しておきますので。ぼくは、やりかけの仕事がありますのでこれで。何かご要望の際は、ミナが知っていますので、遠慮なく言って下さいね」といってユリスは部屋に引き込んだ。
後は、お好きなようにどうぞ。と言うことらしい。
3人を尻目に、ミナだけがあれこれとDJに注文を付けていた。他の3人のご要望など知ったことではない。
「DJあたし、オレンジジュースにピエールのアップルパイがいい。後はティーセットを!仕方ないから4人前ね」仕方ないって、失礼でしょ。
ケリー達はDJが何者で何処に居るのかも分からないがとり合えず歓迎してくれているようなので安堵した。ユリスが友好的でミナが恐れていないのは、どうやら張ったりでは無さそうだったし、ミナのことを友人と言っていた。ユリスの言葉には、何故か説得力と信頼性があった。
4人は、空中庭園に行き、運ばれてきたティーを飲み終える頃には、完全にいつもの4人だった。
「ユリスが何者か知らないが根っからの悪い奴じゃーなさそうだ。それにしてもこんな所に地獄の楽園があるとはね。この屋敷の半径1キロ以内のドンパチはご法度なのさ。確かにここは何処より安全な場所なのかも知れない。しかしドラゴンフィストがあのユリスとはね、おれッチより少しだけ美形なのが気に入らないが」
ケリーの言いぐさにすかさずミドリが反応した。
「少しだけジャー無いでしょ」とチャチを入れた。
「微妙な差さーー」
「あなた、微妙って言葉の意味わかってつかってんの?」
「やめなさいよーー。こんなにいい景色なのにーー。場違いな人達ねーーー。あなた達には品ってもんがないの?」
「あんたが言うーーー?」
優雅?にオレンジジュースを音を立て、ストローですすり。上品にピエールのアップルパイを片手で持ち、かぶり付くミナだった。
ハンバーガーやピザじゃないんだからーー。
「俺もここに下宿しようかなー」とロイトゥ。
ミナが不機嫌そうに反応した。
「ここはドラゴンフィストよ。恐い場所なのよ。何言ってんのよー、駄目よ。安アパートメントと一緒にしないで頂戴。駄目よ、ダメに決まってるでしょ」と言い切る。
ユリスに相談すれば、『いいですよ。みなさんでどうぞ』なんて言うに決まっているわ。ユリスときたらほんと、人がいいんだから。もっと厳しくしなきゃ、すぐに付け上がるわよ。こんなずーずーしいやからは。
自分にだけは、寛大なミナでした。
ミドリが、下目使いでミナの気持ちを見透かしたかのように、見下ろした。
「あんた単に邪魔されたくないだけなんじゃないの?ユリスとのあまーい新婚生活だもんねー。ぜったい邪魔しにきたる」
ミナはマジに顔を赤くして照れた。
「そんなことないってばーー。あたし達そんな関係じゃないしー、別にあたしは構わないんだけどーー。ユリスにだって心の準備ってものがあるじゃない。いきなりはねーー。ミドリ、邪魔しに来たら、ぜったい追い返したるから。あたしってほら、オクテじゃない。だっからーー。そう言うことなのよねーー」
何がそう言うことなのだろう?
「・・オクテ?・・手が早い。の間違いでは?・・ずうずうしくも・・・・わっかりやすい、やっちゃなーー」とケリー。
「同感」とロイトゥ。
あきれ顔のミドリ。
「あんたホント、言ってることと、考えてることが無茶苦茶な人ねー、そんでもって、バレバレじゃない。ケリーもロイトゥも気を利かせてあげなさいよ、友達でしょ。おかしなこと言わないでよねーー、話がややこしくなるからー。」とミドリがたしなめる。
一番話をややこしくしている張本人が言うセリフか?
ケリーもロイトゥも気まぐれで言ってみただけでこんな展開のなるとは思いも寄らなかったし、本気でここに住もうなんてその気があった訳じゃなかったので、すまなそうな顔をして、「すまん、すまん」と手を合わせた。すまんと思ってはいないが。この話は、もう手打ちにしたい。と言う気持ちであった。
「おのおのガタ。わかれば、よ・ろ・し・い。よきにはからえ、だぞ」なんのこっちゃ?
お前は、お大名様か?
30分もするとDJが引越しの終了を告げた。
帰り仕度も全てお任せで整ったが、3人はこの場所や、接待が最高級リゾートホテル以上であると気付き、居心地が良過ぎるので、夜遅くまで引越し祝いとか言って、引き続き宴会に突入しまった。
「DJ、さけ持ってこーーーい。ぬるめの熱燗だーーー。あたして、猫舌だから、アッチッ、チ、だもんね」
更に品の良いガラに彩りを添えたミナだった。
「あたし、酎ハイ。カシス割でおねがーーい」
「おれは、レミーチェスト、ボトルで。そんでもって、エイヒレ。ガッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。エイヒレ、サイコーーーーー。エイヒレ、バンザーーーーーーーイ・・」
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三