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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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「ミナ、デプスは古い友人だからいつもよく働いてくれる。だから今回も僕の為になると思い、そうしたのだろう。でも君には、しなくてもいい苦労を背負う理由があるとは到底思えない。僕は、自分の真の姿も、これから行く場所さえ分からないのだから」
 ユリスは、真っ直ぐなミナの瞳を見てハッとした。ふと自分の言っていることが偽善だと気付き後悔したのだ。
「すまない・・・・」
 ユリスはその次の言葉が出て来なかった。
 ミナは頭が混乱していた。ユリスは何者?
 ユリスの思いやりはミナには充分過ぎるほど感じていた。それは出会った時から変わらぬ思いでミナを包んでいた。その事がユリスを自分から遠ざけようとする要因になるとは思いもよらなかったのである。
 ミナにとって今回のことは、大した事ではない。それにもうとっくに心の整理が付いていたので、これ以上ユリスを困らせては申し訳無いと思い、ユリスの負担を減らそうとして、彼女は彼女なりに考えた。
 かなり思い込みの激しい見当違いの思いやりだったが、ユリスの後悔の念を救うには十分なものであった。
「あたしさー、別に気にしてないよ。アンドロイドやロボットの友達の方が人間の友達より多いしさーー。どっちかと言えば人間は嫌い。ユリスあんたがバケモノったって、見れないことはないよ。昔は、結構ハンサムだったよ。今は確かに本当の化け物だけどね」
 もう、昔ですか?
 ユリスは彼女の思い通りにさせようと思い始めていた。
 ミナのような境遇の人間が富と自由とを投げ打って自分との1円の徳にもならない約束だけの為に戻って来てくれたのだ。
 それだけで十分である。
 ほぼ機能だけは回復したユリスは自分で装置や器具を外してソファーに座り、ミナの買ってきたサンドイッチを食べながら話し始めた。
「ねーーミナ、スリはもう決してするな。それから他の犯罪からも足を洗え。何でもいいから社会に役立つ仕事をしろ。いいな。超1級の犯罪者が言えたことじゃないが・・」
 ミナはきょとんとした。
 ユリスが食事をするのが不思議に思えたのと、死の淵に居たミイラが月並みな父親のような説教をしている事の落差に驚いたと言うより拍子抜けしてしまったのである。
 「あ、ああ・・おやすい御用さ。丁度マンネリしてて、そんでもって飽きていた所さ。まだ足が付いてないから、そろそろ潮時だと思っていた所さ。でもデスプと週末は約束しているから土日休める仕事がいいなー、バイトでもいいか?」
 ユリスはミナもミナなら、デスプもデスプだ。あきれた二人だと思った。よほど相性が合うのだろう。
「べつに奴はサラリーマンじゃ無いから何曜日だろうと関係無い。お前に呼ばれれば、何があろうとしっぽを振ってのこのこ付いて行くだろうよ」
 得意満面でミナは高笑いをして、「ハッハッそうなのかー、あいつ口は悪いが、あたしの魅力に気付くとは、女を見る目だけはあるよなー、よしよし、なかなか見所のある奴だ」と上機嫌である。
 あきれ顔のユリスが、「べつに奴は美人を乗せたい訳じゃない。ただ単に変わった奴なのさ。デスプは絶対に人間を乗せたりはしない奴だ。そういう目的で存在していないからな。人間を乗せるのは後にも先にもミナ、君だけだろうよ」
 ミナは、「ユリスも乗せたじゃないか」と言おうとしたが、「俺は人間じゃない」と返って来るに決まっているから止めにした。
 それはミナにとってどうでもいいことだし、ミナにとっての大事な事は、ミナには予感めいたものがあった。
 ユリスは、ミナが今まで必死に探し求めていた扉の場所を知っていて、きっとその扉は開くと。
 単なる直感だが。
 「あたし美人じゃないし、変人に好まれるタイプなの?ってことは・・・・あたしってもしかして変人?なにおーー、レディに対して失礼じゃまいこと・・・・」
 変人扱いされたと思い込み、ミナがちょっとすねたような顔をしたので急に笑いが込み上げてきた。
 ユリスが初めてミナに満面の笑みで笑いかけた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ミナは、確かに変人だな」
「アッ、ヒドーーーイ・・ユリスーー・・」
 骨と皮のミイラに笑いかけられたにもかかわらず、ミナの胸はドッキンドッキンと自分の物じゃあないかのようにかってに脈打った。ミナにとってはミイラだろうと、300歳の老人だろうと、ユリスであることに変わりはないのである。
 たまりかねて慌てて席を立ち、「あっ、いけねー、急いで買い物したからあたしの好きな飲み物を買い忘れちゃったよ、ちょっと買ってくるね」と言って出て行った。
 顔が赤くなっていやしないか?動揺していてユリスにヘンな女の子と思われてはいないか?言った後、とんでもなく恥ずかしくなり、逃げ出すしかなかったミナだった。
 『ドリンク1本買いに、デスプで町に繰出すか?ふつう?トッホッホッ・・あたしっておバカさん・・・・・』
 じゃ、自分のエアースクーター使えよ。
 しかし、一人じゃ寂しいミナでした。
 チャップが居るでしょ。
 『だってーーーー。デスプの方が早いし、便利なんだもーーーん。』
 そっすか。すっかり足変わりのデスプである。
 いい迷惑なのは、デスプ一人だった。
 お使いが終わると帰るようデスプに指示を出した。
 「ぬぅあんだとーーー?これを買う為だけで、おれさまを使った、だとーーーー?テッメーーー、ミナーー」
 ミナがおもむろに腕組みをした。
「言った通り、もどりなさいよーー。ディ、スッ、プッ」
 声にドスが利いていた。片目だけわずかに開いて見せた。
 『ギョエ。目が恐い、・・・です・・・・・』
「へんじは?」
「ハイーーーー」
「よろしい。意外にすなおじゃないデスプ」
 デスプは、マジでミナが恐かった。
 こんなことなら、最初から素直に従えば良かった。と後悔するデスプだった。


   船出
 ミナはもう10日ほどユリスとは会っていなかった、ユリスとの約束で堅気の仕事に就かなきゃならなかった。それに引越しの準備をしなきゃならず大忙しだったのだ。次の週の日曜日チャーターしたコンテナバードに荷物を積み込み、友人のロイトゥとケリー、そしてミドリを連れて古巣を飛び立った。
 ロイトゥが「何処なんだ、行き先は?」と訪ねるがミナは行き先を言おうとしなかった。
「いいから、いいから、あたしの言うとおり飛ばしてくれれば言いの」
 ミナ達はワイワイガヤガヤ、ピクニック気分で飛行していた。
 スターダスト上空に達すると危険警報が鳴りピクニック気分は吹き飛んだ。レベル4の警戒警報である。
「やばいぜ、ダスト上空だ。早く回避しないと、撃ち落とされるぞ!」
 ケリーが叫んだ。
 ミナだけ落ち着き払っていた。
「アッそう、じゃ高度を下げて、目的地周辺よ」と言った。
「冗談だろ?ミナ。この下に何があるか知ってるだろ!」
「知ってるわよ。スターダストでしょ、そこに行くのよ。安全なアプローチルートを知ってるから心配しないで」といって運転をミナが変わり、鼻歌交じりのミナ以外は戦戦恐恐である。
 どうも皆の様子がただ事で無いので緊張をほぐそうとした。
「毎日通っていたけどルートを外れなければ安全よ。それにもう着いたし」と言ってモニターに映った建物を指さした。