ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
上空にチャップが向かえに来ていた。ミナはジャンプして、ファイヤーバードに飛び乗ると、あっと言う間に消えた。
タイムパーワーカウンターで測定すると、スリーオーワン最終ステージ256年の10倍に匹敵する質量の時間がクラスロミでは流れ、二人を進化させていた。
二人だけがタイムカプセルに入り時間を早回ししたことになる。
戦闘能力はもう別人と言っても過言ではないほどアップした。
ミナが居なくなった夢の後、残されたロードスはつぶやいた。
「礼を言うのは俺の方さ。ありがとう。ミナ。ちっちゃい事か?そうだな、お前にとってはちっちゃい男だな。お前には勝てそうに無い。しかしお前のチームメイトとして恥じないよう俺なりにやってみるさ。俺にとってはロミが初めての学校だ。そして俺のたった一人の相棒。ミナは全てを知りながら、それでも拒むことなく、なんの抵抗も無く受け入れてくれた。俺は幸運な男だ。これで生きられる。クラス・ロミの卒業生として。」
しばらくすると、時間を見計らったようにクレイが現場に到着した。もちろんその場にロードスの姿は無い。
顔を合わせたくないのだ。
ロードスから詳細についての報告は受けていて、事情は知っているが、クレイがそれを他言する事は無い。
「仕方のない奴だ。おれは、いつもあいつの尻拭いか。まー、それも良かろう。」
ゾフィーは、この場で起こった事について知るよしもない。
この件に関してはクレイの管轄外の事件とされ、地元の警察に引き継がれ、葬り去られるだろうが、第一発見者として現場の調査報告書の作成はしなくてはならない。
完璧に隠蔽する為にも。
もちろん、調査報告書は、ねつ造するに決まっているが、その内容の概略は以下のようなものであった。
幽閉場所から脱走した国家叛逆アンドロイドのロッキーは何者かによって殺害され灰にされた。
その犯人は逃亡し、行き先不明。
アンドロイドのロッキーの遺体は既に焼却されているので、鑑識に回される事も無く廃棄処分された。
と言った、簡単な報告書である。
それよりもクレイには、ワンハンドレッドイレブンのメンバー達の被害状況が一番の気掛かりであった。
その後、ワンハンドレッドイレブンのメンバー達の経緯についてだが、クレイの気転により秘密裏に即、入院はしたものの、どのメンバーも派手にやられた割には軽傷で済んだ。
1週間から2週間で退院して、もとどおりの元気な姿を取り戻した。
しかしあの戦いが影響して、一人一人何かが自分の中で変化した事を感じ取っていた。5人は初めて自分の意見を持つようになった。
それにしてもさすがロードスとミナである。
あの非常事態においても相手の戦闘能力のみを狙った、冷静さを保っていたのだ。
ロッキーについては別の体を得て元の主人ボブのところへ返る事が出来た。
今度の体は20歳ぐらいの男型のヒューマノイドであった。
ロッキーがオス犬だったから男型である。ではなぜヒューマノイドなのか?それはやがて老いて行く、身寄りのない主人を介護するのがロッキーの願いであったからである。
ヒューマノイドはそれを行うのに適している為にロッキー自身が選択したのである。
そして、プランニングしたのは実はゴン爺さんであった。
ロッキーは要望を伝えただけで、余計なことは一切指示していない。
ゴン爺さんはロッキーが姿形にはこだわらないと分かっていた。
ボブは更にロッキーの姿形にこだわりを持っていない事を知っていた。
あの忌まわしいアンドロイド兵器でさえボブにとっては中身がロッキーであれば、それがロッキーなのであった。
超精密で複雑なアンドロイド兵器を使いこなすロッキーにとってはヒューマノイドを動かすぐらいなんでもないことだった。
料理は七つ星レストランのシェフ並み、ちなみに宇宙全体でセブンスターシェフは5百人弱しか居ない。コスモプラントには最高位でスリーポインターと言われるスターにさえなれないシェフしか居らず、残念ながらセブンスターはコスモプラントではロッキー唯一人である。
セブンスターシェフともなると、料理と言うより、治療に近いので配合や成分に重きを置いており、しかし、食べるとおいしい魔法の力を持っている。
セブンスターシェフのほとんどが商売で料理を作ることをしない。ロッキーもご多分に漏れず愛する者にのみ、その腕をふるった。
食はおいしいだけでは駄目で、贅をつくすなど、スリーポインターに任せておけばいい。
食べる者を幸せにして、健康を運んで来なければセブンスターではない。ロッキーの医学知識は宇宙医学会の最先端知識が常に更新される。
力持ちで持ち前の気配りの良さが更に磨きが掛かり、スーパーガイノイドも舌を巻く出来栄えである。
ロッキーの体創りにはユリスの紹介でゴン爺さんが一肌脱いでいるのだが。ユリスとゴン爺さんのコンビで無ければ造れない入魂の自信作がまた一つ追加された。
これで全ての任務は終了し、カードX101から継承された、カードR101も無事に処理済みカードフォルダーに移動された。
ロッキーがボブ邸に帰還する日、ミナとビル、そしてマイや大勢のスタッフ達により盛大なパーティーが行われた。
みんなで持ち寄った、手弁当、手作りのホームパーティーだが、心だけはこもっていた。
彼らは他人の迷惑に無頓着で、清楚なボブの館はいつもとは別世界に飾りつけられた。別世界といっても、どちらかと言うと幼稚園の学芸会に近いが。なんせ、予算が限られているもんで。
メインイベントのボブとロッキーの感動的な対面を見て、大男達が、大声を張り上げてうれし涙を流した。
ミナはさすがに恥ずかしいらしく、トイレに駆け込んで、オイオイと人目を気にすることなく泣いた。
目と鼻を真っ赤にはらしてぐしゃぐしゃの顔でトイレから出てくると、既に他のみんなも、うれし涙が収まっており、ビルの号令の元、パーティーの幕は切って降ろされていた。各々に彼ら流で飲めや歌えのドンチャン騒ぎで歓迎した。
この仕事の世界では打ち上げパーティーなるものは存在しない。
特にこの社に持ち込まれる物件はきな臭い物や、常に犯罪が絡む為、極秘であり、あくまでビジネスライクに高額な代金を請求する。
その為、裏社会や、高額所得者しか相談に来られず。予算が合わなければ仕事はしない。
慈善事業をしている訳じゃ無い。
殺し以外はどんな汚い仕事でも割り切って行う為、私情や感情の持込はご法度であり、いちいち持ち込んでいたのでは仕事に成らない。
このカードは異例中の異例であり、ロッキーが仕事を通して、みんなに愛されたことを意味していた。
ロッキーとは初対面の者も多いはずなのに50年来の友人のように親しく打ち解け合った。
ボブも最初のうちは困惑していたが、パーティーが進むにつれ、これほど気のいい愉快な者達はいない事に気付き、すっかり打ち解け合っていた。
『これもロッキーからの贈り物なのか?』とボブは思った。
X101、R101は全員の共通カードであった。
たとえ直接の担当ではなくても、情報は共有化され、全員が心の一番大事な所に置いていた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三