ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
顔を合わせても、合わせなくてもロッキーの情報交換をし合っていた。
「ロッキーを救え。」がここに居るみんなの合言葉であり、願いであった。
誰一人として、このカードをあきらめる者はいなかった。
どんなに苦境にあってもスタッフが一丸となって立ち向かった。
商売であると考えている者は、誰一人居なかった。
金なら他のやつから取ればいい。
この日、その願いが叶ったのである。
これ以上の喜びはない。
絶望が深かった分、現場スタッフにとってはうれしいのだ。
その日、体力のある限り朝まで踊り、歌い、騒ぎ続けた。
明日の仕事なんか、もうどうでもよかった。
本当に他人の迷惑を考えないスタッフ達であったが、ボブとロッキーはこんな馬鹿げたパーティーでも感謝しきれないほどにうれしかった。
しかしそれだけでは済まなかった。
これには、後日談が付いている。
その後も彼らは、なにかしら理由を付けてはやって来た。
しまいには遠慮も気がねも無く、まるで実家にでも帰って来るような気軽さでロッキーに会いに来る者がいた。
それはミナのことである。
「また行ったの?ずうずうしいわね、あんた達。行くなとは言わないけど、少しは気を使いなさいよーーー。」と他人にはエラソウナ事を言いながら、自分のこととなると本能的に行動するミナである。
「チャップ、少し時間があるわね。ロッキーん家へ遊びに行こーーー。」と言った具合で、他の誰よりも多く、用も無いのにチャップを連れてやって来た。
「ロッキーあそぼー。居る?」
お前は、小学生か?
「ミナだよーーー。」と、インターホンも使わず大声で門が壊れんばかりに叩く。
いくらなんでもそんなに早くは出られない。
門が壊れるーーー。
当たり前のように、毎回違った特別なお茶と何処に行っても食べられないロッキーオリジナルのケーキやお菓子をご馳走になった。場合によっては、そのまま、夕食まで食べて帰って行った。
限度を知れよーー。
ここが心のオアシスであることをみんな本能的に判るのだ。
あっと言う間にミナの仲間達が持ち寄るガラクタや食べきれないほどの食料で館がいっぱいになり、困り果てたボブはある日、遊びに来る時のお願いを、来る客一人一人にした。
「わざわざ来て頂いているのに、お土産までお持ちにならなくても結構でございます。お気持ちだけで充分ですので、身一つでおこしいただきたい。」と。
早いはなし、捨てるに捨てられないゴミを持ち込むな!と、言っているのだ。
その後、彼らは「そんなことは、お安い御用。」と、以前は多少の遠慮があったらしく、我慢していたのだが、たがが外れ、厚顔ぶりをいかんなく発揮して、遠慮することなく来るようになり、その回数がミナ並みに倍増したことは言うまでもない。
それでも、前は遠慮していたんだ?
ミナはと言うと、それとは知らず、相も変わらず同じペースで来ていた。
ある日仲間からボブからのメッセージのことを聞かされると。
「エヘン。あたしもチャップも迷惑かけてないもんねー、いつだって、手ぶらよ。手ぶら!あったりまえじゃない。あたし達は、あんた達と違って、ちゃんと気を使ってるんだからーー、どうよーーー。エライでしょーー。」と言って、チャップとミナは二人そろって胸をはり、得意気な顔をした。
エライのとは違うと思いますが?
「お馬鹿。あなた達の場合は、なんにも考えて無いのが、たまたま幸いしたんでしょ。」とマイに一笑されただけで、他の者も「ウン、ウン」と首を縦に振り同意して、誰も褒めてはくれなかった。
ビルがそれではミナ達が可愛そうだと思ったのか、「まーそれはさておき、ロッキーが言っていたぞ、ミナ達の笑顔に会えることがぼくには何よりのプレゼントなんです。」って。
ミナは引っ込みかけた胸を更に張って今度は無言で悦に入っていた。ミナには甘いビルであった。
X101、R101、通称シンメトリーと呼ばれていた難攻不落のシークレットカードが見事に奇跡の華を咲かせた。
奇跡を呼びこんだのは主人思いの心やさしい一匹の犬であった。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三