ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
「ナゼ?あの時の勝負は、あたしの負けよ。」
ロードスはミナに背を向けた。出来るだけ私情を排したかったのだ。
「いや、俺の完敗だった。あの最後の一撃は僅かだが俺に不利だった。俺は逃げ切れなかったはずだ。それなのに、なぜ俺が逃げ切れた?おかしいじゃないか。その答えは一つしかない。お前が自分を犠牲にして俺をブロックして守ったからだ。コンマ1秒に満たない僅かな時間だろうが、それが生死を分けた。俺の事など構わず、自分一人だけなら、簡単に逃げ切れたはずだぞ。俺を救ったが為に自分が逃げ遅れ負傷した。なんて無茶をするんだ。俺があの戦いで進化していなかったら、お前を助けられなかったところだぞ。」
ロードスは振り向いて、ミナに向き合い大声を張り上げた。
やはり、私情を排すことが出来なかった。
「大バカやろー、なに考えてんだ!死んじまったら、どーする気だったんだ。」
これほどロードスが取り乱すとはミナは思わなかった。不覚にもロードスの目には涙が浮かんでいる。
当時の事が脳裏に蘇ったのだろう。
「お前が万が一死んじまったら、俺は、俺は・・・・、死んでも死に切れなくなる所だったんだぞ。人の気も知らないで。バカやろーーーー。バカやろーーーー。」
ミナはいきなり怒られたものだから、小さな体をさらに小さくした。
これほどのカミナリを落とされたことはミナの人生において無かった。ララやロンはこんな無茶苦茶な叱り方はしない。厳しいく、理路整然としているのだ。感情で叱るのは、低次元の発想だからだ。ララやロンは、ミナが、付いて来れるか?来れないか?を問うているのだ。
『低次元の発想で、ワルーございましたね。』
しかし、ロードスは違う。正に自分以上にミナの立場に置き換えている。私情だらけなのだ。
「ごめんなさい。ロードス。だってあの時は必死だったから、あれこれと考えている暇なんか無かったんだ。あたしはロンとララに教えてもらった通り、戦っているだけだもの。ロードスだって、そのあと直ぐに、あたしを救い出したじゃない。おあいこだよ。おあいこ。あたしにだけそんな事、言われてもずるいよー。」駄々っ子じゃないんだから、ミナさん?
ロードスはクスッと笑った。
それもそうだと思った。今までの戦いでこのような感情は一度も無かった。
こんな戦いがあることすら知らなかった。
ミナと戦いたかったのはミナの持つ底知れないパワーに引き付けられての事であった。一体この子は何者なのか?それを知りたかった。
その戦いの中で、意外だったのは自分自身の変化についてである。予想もしない新たな力が次々に目覚めて行った。
しかし一番は、精神面での変化であった。そしてロンやララがミナのような戦い方をしていると言うのか?
ミナと出会って、あの血も涙も無い破壊王ララ、そして、魔王ロンが変わったとでも言うのか?ロードスは、その答えが欲しかった。
だからこそ、聞かずにはいられなかった。
「ミナ?自分の命よりこの邪鬼の命を優先する理由が何処にある?そんなもの、あるはずがない。教えてくれ。俺はあの戦いで一度も優勢に立った気がしなかった。おまけに最後はボロボロのお前に命を救われた。それで俺が勝っただって?笑わせる。お前にとって、勝つだけなら、いつでも勝てたはずだ。しかし戦いの継続を望んだ。そこまでしてお前はなぜ戦うんだ?どこまで戦い続ければ気が済むんだ?」その問いは、自分への問いかけでもあった。
ミナはあっけらかんと言ってのけた。
「いいじゃん、勝ち負けなんてどうだって。勝った負けに意味は無いよ。それは時の運に左右されるもの。あたし楽しかったよ。だたら戦う。それじゃ駄目なの?あたしは、それでいいと思うな。あの戦いはあたしにとってはロッキーのことも大事だけれど、それとは別の目的があった。勝負だけにこだわれば、あなたのせっかくの申し出と誠意に対して背くことになる。そんなこと、戦う前から分かってることでしょ。なぜ、今さら聞くの?極限の状態でなければ目覚めない力がある。そうでしょ?あたし達は、それが欲しかった。ごめん。勝手に。でも、あなたもそうでしょ、ロードス。他の人ではこうは行かない。ララやロンでは駄目なの。何処かで、無意識の制御が働いてしまう。あなたとあたしは求めるものが同じ。だからこそ、あなたとあたしは追い詰めあって、覚醒を果たした。ちがって?あたしだって一瞬たりともあなたを上回ったと思えたとき(瞬間)は、なかったわ。あなたは戦うたびに強くなって行ったから。あたしがどんなに強くなってもすぐにあなたはあたしの上を行った。あたしはもっと強くならなきゃって必死だった。このまま続ければ、やばいことになるのは覚悟の上。でも止めることは出来なかった。その先にある物を見てみたかったから。なぜそこまでして戦うのか?戦う事は生きる事そのもの。なぜ生きるのか?と問われれば『生きたいから。』としか答えられない。死は避けようとしても避けられやしない。死は与えられる物よ。でも生は違う、どう生きるか?何を求めるのか?自分にゆだねられている。自分だけが選択権を持っている。あたしには守りたいものがあるから、それを守る為に戦う。理由があるとしたら、それしかないでしょ。でも、実際には強くなくては守れないし、力がなくては、戦えないの。だからあたしは力を求める。しかし力は諸刃のツルギ、力を求める以上は、その力をコントロール出来なきゃいけない。そう教えてもらったの。あたしはロードスを助けた訳じゃ無い。自分の放った力に対して制御しただけ。もし制御出来なければ、その力によって自らが滅ぶのが定め。そうも教わったの。あたしはその言葉を信じているし、それに従う。自分の力が及ばない力を行使するのは無謀でしかない。そもそも、そのような力をふるう者に力を持つ資格なんか無い。そうロンとララはあたしに身を持って教えてくれたのよ。深い意味なんかあたしには分からない。ロンとララに必死でついて行った、だけだもの。あたしはロンとララが先生で良かったと思うし、二人を100パーセント信じているの。二人が大好きだから。何はともあれ、あたしもロードスも結果的に死なずに済んだんだから、結果オーライよ。ララも怒らないと思う。たぶんだけれど?ずいぶん心配かけたから、本当はちょっとだけ心配なんだーー。あーララがコスモプラントに居なくて良かったーー。でも、もうすぐ帰って来るのよねーー。どうしようーー。アアアアーーー。それよりロードスの場合は神経質、過ぎよ。あたしみたいに成れとは言わないけれど、ちっちゃい事を深刻に考えちゃダメ。いい?そんなことじゃ、大事な事を見落としちゃうよ。ユリスもそうなんだけれどーーー、二人の悪い癖よーー。それじゃー女の子にモテナイんだからーー。あなたはハンサムだし、そこんところ直して、勇気を出して、そのやたら高いプライドをちょっと下げてガンバレば、きっとモテモテよ。あたしが保障する。このー色男めー。美女を一人じめするなんて、ずるいぞー。このーー。プレーボーイめーーーー。」と言ってロードスをぶつポーズをした。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三