ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ミナは自分のことは、気にしていなかった。ロードスの身だけが心配だった。
ユリスはそれを嬉しく思った。
「ミナ、きみの方がアヤブイと思うのだけれど。」
「あたし?あたしは大丈夫よ。ララがいるし、ロンだって、デスプだって、チャップだって、DJもね。みんな頼りになるわ。それにあなたがいるわ。」
「ぼくは、一番最後ですか?あまり、たよりにされていないんだな。」
ユリスはわざとすねて見せた。
「ごめん、ごめん、そうじゃないの。ほら、人間って、義理とか、しがらみとかあるじゃない?そう言うことなのよねーーー。」
ゆりすは、ミナの口から、義理とか、しがらみとか言った単語が出て来るとは思わなかったので少し可笑しかった。
「ガイヤが誰を送り込んできても相手になるわ、負けやしない。でも、今はまず、ロッキーを取り戻す。そのことに集中するわ。」
ユリスは強くたくましくなったミナを見てほんの少し、まぶしかった。
「今、居場所はララが捜索している。じきに分かるだろうが、まだ数日はかかる。それまでは休むといい。」
ミナはバルコニーに出て腰掛け、ホットミルクを飲みながら、ペンダントの3次元映像のテレックスで仕事仲間と次々に打ち合わせをしていった。
仕事の内容は2秒で終わり、殆ど内容はなく。世間話と終始大爆笑だったが。
その視線の先には、ユリスが居た。
留守中、仕事に支障は出ていない事を確認して、ペンダントの電源を切った。
甘えるようにユリスに抱きつきキスをした。
ミナを戦場に駆り立てるのはユリスへの思いからである。
そしてミナは、自分自身の存在をかけている。
でも、そんなことはどうでもいい。
ユリスがこうして、生きていてくれるだけで。
ミナにはそれが何よりもご褒美であった。ユリスに抱きかかえられ再びベッドに戻された。
そして二人は、深い深い迷宮に潜り、二人だけの延々と繰り返される営みに身をゆだねた。
リベンジ
ララの情報から、ビルが張り込みを続け、ある施設にロッキーが囚われている事を突き止めた。
今やロッキーの事など当局にとっては、敗戦処理に過ぎない。
ターゲットは完全にミナに移っていた。
ロッキーはミナをおびき出す為の餌に過ぎない。
それと知っていても、助け出すのがミナの仕事である。
この施設は軍の基地内にあり、犯罪者を拘置するような場所ではなかった。
ロッキーが逃げ出す心配が無い為、ロッキーに対しては、ほとんど警戒を行っていない。
ロッキーは比較的自由に施設内であれば行動出来た。しかし外部の者への防御は半端ではなかった。
ロッキーの居場所は、軍の基地内でもさらに厳重に立ち入りが管理された区域の奥の奥にあり、様々な防衛システムで守られていた。
超VIPの政府高官であってもこれほどのガードはして貰えないであろう。
この事が極秘中の極秘であることを物語っている。
ミナはこそこそ隠れてどうこう出来るものではないと考えた。
しかし昼間堂々とやるような内容の事では無いので、一応礼儀を払って、夜襲をかけることにした。
ララとロンの助っ人をかたくなに断って単独で襲撃することにした。
深夜2時、作戦無き作戦が実行された。
その日、不思議なくらい基地全体が無警戒であった。
ミナを基地奥深くにおびき寄せるのが狙いである。
そもそも一般の軍事兵力でミナに対抗しようと考えること事態、自殺行為である。そのような愚作をゾフィーがするはずもない。
ミナとチャップはファイヤーバードに乗り、ロッキーが囚われている施設のエリアに入るゲートの前で止まった。
「チャップここからはあたし一人で行くわ。ここで待っていてね。」
チャップは着いていくと言ってきかなかった。
それでもミナは一人で行かねばならなかった。ここから先はあまりに危険だからだ。
「チャップ、もしあたしがとらわれて、動けなくなったら、いったい誰があたしをここから救い出してくれるの?あなたしか居ないじゃない。二人とも捕まるわけにはいかないの。あなたは、最後の切り札よ。」
チャップは何度も頷いた。
かなり、ご満悦だ。小さな胸がこれでもかと張っていた。
「良く聞いて、ここから先はあたしの仕事よ、きっと帰って来るから、だから少しここで待っていて。もしあたしが呼んだら、その時は助けに来てちょうだい。あなたを頼りにしているわ。一緒にここから出ましょ。ロッキーを連れてね。」
ミナにそこまで言われたら、チャップには何も言う事は出来なかった。
ファイヤーバードのコックピットのルーフが開き、ミナはフライングジャケットを装着して飛び出した。
真っ直ぐに目的の建物目掛けて飛行した。
後、2キロの地点で閃光弾がミナの進路の直前で炸裂した。
さすがのミナも一瞬視力を失った。
同時に急ブレーキを掛けさせられた。
空中に浮いたまま視力の回復を待った。ものの2秒であったが、ミナの前方には5人の戦士が立ちふさがっていた。
地上からわずか100メートル上空で対峙した。
5人の内の一人が喋った。
「お嬢さん。こんな、夜遅くどちらまで行かれるんですか?行き先によってはエスコートして、さし上げましょう。」
タチの悪いナンパだ?
ミナは冗談に付き合う気が微塵もなかった。
「ワンハンドレッドイレブンね。シックスブランチの中でもエリート中のスーパーエリートが5人も揃ってお出迎えとは、あたしもえらく出世したものね。その?ご期待に沿わねばね。さーー。スクラップにされたい人は、かかって来なさい。」
強気もここまで来ると訳が分からない。
5人はお互いの顔を見合わせた。
自分達の素性を一目見ただけで、そこまでこの子はお見通しと言う事か?どんな能力の持ち主なのだ?
驚きを隠せなかった。
もう軽口をたたく気にはなれなかった。
別の者が言った。
「これは失礼。紹介が遅れました。レディー・ミナ。右からエリック、パトリシア、ユンス、マカ、そして私はドミンゴ。ワンハンドレッドイレブンとは、懐かしい響きだが、まさしく我々はワンハンドレッドイレブン・アレク(111A)の出身だ。ワンスリーエー。と呼ぶ者も居るがね。あなたの抹殺が今回の任務と心得ていただきたい。ララとロンが共に来るとの情報があったので万全をきしたまでのこと。これは果し合いでもなければ、スポーツでもない。勝たねばならない戦いです。申し訳ないが任務を遂行させて貰う。」
そう言い終ると、5人の姿が消えた。
『勝たねばならない戦いだと?そんなものが、この世にあってたまるか!。それをこれから教えてやる。』
射程距離まで離れたのだ。
5つの方角からミナの退路を絶つように攻撃が開始された。
一回目の攻撃は辛くもよけた。
続いての攻撃は波状的に繰り返された。
ミナは逃げ惑い、防戦一方である。
はっきり言って、乗り気にはなれない。
無様な戦いを強いられた。狡猾にして、巧妙。ひの打ち所の無い、完璧な攻撃と言えた。
逃げ続けている内に、疲れが来たのか?一瞬の気のゆるみか?それとも誤算か?攻撃をかわしそこねた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三