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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 アナウンスはすまなそうな声で、「これは大変失礼しました。次回いらっしゃる時までは玄関らしく、しつらえて置きます」と言い、円形ステージを用意した。しかしミナは円形ステージの案内を断り、走ってあの部屋に向かった。ミナには胸騒ぎがあった。それが何なのかは分からない。しかし良い予感であることは間違いなかった。
 部屋に入るとあの棺の中にはユリスは居なかった、きょろきょろと見回すと奥にあるソファーにユリスは横たわっていた。どのようにしてユリスがあそこまで行ったのかは判らないが、あいかわらず殆んど生気が無く死人のようである。
 ミナは自分が不法侵入をしているのもお構い無しで、照れ笑いをして頭をかき、話しながらユリス近づく。
 ユリスにはもうとっくに自分の侵入が気付かれていて特に拒まれてはいないと思っていたから、遠慮する理由は何もなかった。
「ヤー、ひさしぶり、大した用じゃないんだけれど、元気かな、なんちゃって」と言うとユリスの目が静かに開きミナを見つめた。瞳だけは紛れも無くユリスそのものであった。深い憂いをたたえ、ミナを見つめ返した。
「ようこそミナ、せっかく尋ねてくれても、何のもてなしも出来ない」その言葉は確かに聞こえるがユリスの口が動いた気配は無い、ミナが困惑していると、「失礼、ここでこうしているのが今の僕には精一杯で、今はあなたの脳に直接アクセスして話しかけている。よかったらどうぞお座りください」
 ミナは大きく手を横に振り、驚いてないことの意思をジェスチャーで示した。
「これって、テレパシーの一種ね、気にして無いわ、ずいぶんと立派なセキュリティーね。あたしプロだから分かるの、でも意外とすんなり入れたわ。あたしってもしかして天才?」と言いながら横たわるユリスを正面に見られる位置に腰掛けた。
 「ここの防御システムは不審者や侵入者の脳波や思念を分析して、その目的や個体認識や選別をしていて、次の行動さえ予知できる。したがってどのような侵入者にも客人にも対応が出来る。君は不審者でないと判断したのだろう、失礼は無かったですか?」
 「ハッハッハッ失礼だなんてあるわけない。いつでもウエルカムよ、歓迎してくれているわ」と空笑いをしていると、ユリスが続けた。
「それはよかった、ところで、何か大事な用でもあるんじゃないかい?大した用じゃないって言っていたけど」
 もじもじと、かなり具合悪そうにしていたが思い切って切り出した。
「逃してくれたのはありがたいと思っている。だけれど、御礼をしたくて来た訳じゃない。良くは分からないんだけれど、なんか気になってね。そんでもって来てみたら、あんのじょ、ミイラになってるじゃない。どうしてそうしているの?」
 気まずい空気が流れ、しばらくの沈黙の後、ユリスが切り出した。
「生きている意味が見つからないから」
 ユリスにとってはやっとのことで搾り出した答えだった。
 しかしミナにとっては憤りなのか、いや、悲しみなのか、表現しようの無い感情がこみ上げて来て目を赤く充血させ大声でどなった、半分泣き声である。
「ふざけんな。なら本当に死んじまえ。どうせ友達も居ないんでしょ。誰も悲しむ奴も居ないんでしょ。お前なんか・・お前なんか・・・・」
 一気にそこまで言うと後悔の念で体が、がくがく震えた。
 この1週間以上通いつめ、ミナはミナなりに色々と考えていたのだ。それを知ってかユリスはミナが気の毒になり、やさしく言った。
「ミナ、ありがとう、何も君が僕の事で傷付くことは無い。ぼくには死ぬ理由さえも与えられていない。見てのとおり普通の人間ではない。このまま食事も水も取らずに何十年、いや何百年も死なずに生き続ける。しかし機械でもない。この状態を生きているとは言えないが、死は与えられていない」
 ミナには痛いほどユリスの気使いが分かっていた。ひどい事を言われたにもかかわらず、自分の事より相手の事を気遣っている。
「ミナ、ありがとう」の言葉だけで、ミナの心の中で、ふと何かがふっきれた。
 さっきとは別人のように満面の笑顔で、「しょうがねー奴だなー。まーいいからあたしに任せなよ。これでも探偵もやってんだ。まだ助手だけどな、探し物は得意だぜ。アタシが探してやるよ。あんたが生きてく意味ってやつをさ。料金は格安で負けといてやるよ。成功報酬でいいし、前金も取らない。太っ腹だろ。あたしって結構、こう見えて義理がたいんだ。それより先に腹ごしらえだ。こんな屋敷に住んではいるが、どうせ金が無くって何も食ってないんだろ?なんか買ってくるから待ってろよ」
 そう言うとミナは席を立った。出て行こうとするミナにユリスは声をかけた。
「ミナ悪いが僕のライトプレーンと一緒に行ってくれないか、僕に必要な物も行き先もマネーカードも彼が持っている」
 振り向きざま、ミナは困ったような顔をして、「もし、よければ、あいつ乗せてくれるかなー?」と言った。
 ユリスは顔をほころばせた。「ああ、デスプだね。じゃあそのように手配しよう。あいつもあの事は、まったく気にして無いよ、元々君に盗める相手じゃない。あの時だってわざと寝たふりして君を無理やり乗せて散歩気分で楽しんでいたぐらいさ!」
 ミナはプライドが傷付いたが、ホットした方が勝り悪い気ではなかった。何故ならあのマシンに乗れる喜びは乗る前から想像がつく。
 デスプとのフライトは飛び上がるほど極上の快感である。いずれにしろ、ミナもデスプもただ者でない。
 マシンと人間であることの違いはあるが。
「あいつめ、マシンのくせして人をコケにしやがってーー」と怒ったふりをして、ウキウキしながら出て行った。
 アナウンスの声とも、すっかり友達になってしまい、ミナは名前を勝手にDJにしてしまった。
「ねーあなた誰なの、誰でもいいんだけれどあなたを呼ぶのに困るからDJにするわ。本当はドラゴンジョーって言う、りっぱな名前で呼んであげたいんだけれど、面倒くさいでしょ、DJにおまけしといて。お願い。それとお嬢様はやめて、ムズかゆくて、じんましんが出てきちゃうわ。ミナと呼んでね」
 ミナは用件を手早く告げた。
「あの態度のでかい、エアープレーンは何処DJ。」と言うと「態度のでかいと言えばデスプのことですね。今、屋上にいると思います」と飲み込みのいい対応が返ってきた。
「サンキューDJ。」とミナが言うと、「どういたしましておじょー・・いやミナ」と、しどろもどろになった。
 そんなやりとりをしながら、屋上に出るとあの時と同じようにデスプがコックピットへのドアを大きく跳ね上げ待っていた。
 ミナが乗り込むや「ヤーミナ、久しぶり!」とデスプがあまりに気安く言ってきたので少々勘に触り、「なんであたしの名前を知ってんのよ」とけん制してみせた。
 デスプは例の件での自分のいたずらがバレタと感付き、「なに怒っているんだ?あの時のことは謝るよ。悪気はないんだ。ちょっとからかっただけじゃないか」とこれでもデスプにしては下手に出たつもりなのである。
 するとミナは切れてしまった。
「人をはめといて悪気はなかった?で済んだらおまわりさんは要らないのよ。ちゃんと地べたにおでこ付けて謝りなさいよーーー」ムチャ言う奴だ。