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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 「あいつをクルーザーに放り込めば、後は黙って奴のねぐらに届けるだろう。到着するころには目も覚めている。多少はあっちこっち痛むだろうがな。ミナ、お前の受けた傷に比べたら、あいつのは、かすり傷の内にも入らない。それどころか戦いの余韻に浸って数週間は天国をさまよっていられるだろうよ。もしかしたら、あいつはこの世で最も幸せな奴かもしれない。いやだねー戦闘マニアってー奴は。理解しがたい。いや、理解したくもない。それにしても派手にやられたなー。あっちこっちの骨が折れているぞ。痛むだろうが、よく耐えている。さすがミナだな。俺だったら、泣き叫んでいるところだぞ。やつが用意したプログラムは今までのデジタル空間ではない。現実空間に仮想空間をリンクさせ再構築したものだ。現実世界と物理的にも同じ作用をする。受けたダメージは現実の物なんだ。エスパーだけが侵入出来る空間であり、最も危険なファイトと言える。スリーオーワンでさえ危険過ぎて、誰もやった事が無い。下手をしたら死んでいたんだぞ。困ったやつだ。ムチャしやがって・・・・」
 ミナは深くうなずいた。
「知ってるよ。あたしが深手を負ってしまったので、ロードスも途中から後悔していたけれど、あたしは嬉しかった。ロードスは、そこまでしてあたしにぶつかって来てくれている。必死さがひしひしと感じられたから。ロードスは全力で戦ってくれたの。手抜きはないわ。偽りも無い。正面から体当たりしてきた。でもそれは自分を丸ごとぶつけているだけなの。これほどの捨て身の悲しい攻撃をあたしは知らない。ロードスにあたしを殺す気持ちは微塵もなかった。変でしょ。でも戦っている内に彼のことが色々と分かって来たの。悪ぶっているけれど本当はとてもきれいな気持ちの持ち主で、傷つきやすい。だから虚勢を張ったり、無理してでも憎まれていた方が楽だと思っている。彼は確かに見栄っ張りだけど、それ以上に大きな人よ。だからあたしも全力で戦えたの。ララともロンとの戦いとも違う。なりふり構わない地金のあたしをさらけ出せた。ロードスは、そんなあたしを、目を背けずに、全部受け止めてくれた。決して逃げなかった。あたしが傷ついたのは全て自業自得。あたしが未熟だから。弱い自分が、くやしくって、もどかしくって、それは、あたしが望んだ事。それは、ロードスの望みでもあった。そしてあの瞬間が訪れた。最後の一撃で大爆発が起きたの。ロードスの攻撃とあたしの攻撃が核融合して計算外のエネルギーが発生したの。それは防御不能なレベルの大爆発となってしまった。彼もあたしもそれを予知できなかったのは、相手の攻撃が何なのか寸前までカムフラージュして、さらにシールドし合っていたから。その時、あたしはもうだめだって覚悟したわ。彼もあたしが逃げ切る力が残されていないことを知っていた。だから彼は、あたしを守る為、全エネルギーを放出して可能な限り、あたしを守ったに違いないわ。その時あたしは爆発で気を失っていたけれど。気付いたら、瓦礫の山に横たわって居た。しかしその場所は爆心地から15キロは離れているわ。気を失ったあたしがそこまで自分の足で歩いて来たとは、とても思えない。これがスリーオーワン?ユリスが命がけで守りたかったクラス?あたしには分かるような気がする。」
 「いや、奴は、トリプレックス・エレンだ。それにユリスは、スリーオーワンがダイッ嫌いさ。口に出すのも嫌がるだろうよ。クラスは出身地に過ぎない。」
 ロンはミナが変なことを言うな?と思った。スリーオーワンでは、自分以外は全てが敵だった。そう教えられてきた。クラスメイトなら、なおのこと身近な敵。ユリスはクラスの誰とも打ち解けようとしなかった。当たり前の事だが。相手をどうやって潰すのかを日々叩き込まれた。ロンだって上っ面だけ合わせていたが、誰も信じちゃいなかった。
 今日の友は明日は敵。どのクラスでも同じことだ。
 ミナはロンの顔色を見て続けた。
 「そうね。でも、なぜかしら?ロードスの気持ちの中にあったのは、スリーオーワンだったわ。ユリスはスリーオーワンが嫌いな訳ではないわ。誰とも戦いたくはなかった。ワンハンドレッドイレブンともトリプレックスとも、他のクラスとも。でも一番戦いたくなかったのがスリーオーワンだった。だからあえてユリスが選んだクラスは、スリーオーワンだった。」
 ロンはなぜ最終決戦のことまでミナが知っているのか?それを問うことっはなかった。
 『ユリスは、自分だけが生き残ることだけを考えるのなら、スリーオーワンの選択はありえない。なんせスリーオーワンは落ち零れ集団だったからな。それ以外の他のクラスを迷わず選択するはず。ただし選べるならの話である。』
 ロンにはユリスについて、分からないことだらけである。
 他のクラスは、スーパーエリートのクラスだからだ。入ろうと思って入れるクラスではない。それより前にルールさえ知れされず、どのようにクラス分けをしたのかさえ被験者には不明だったのだ。
 それらをユリスは見抜いていたと言うのか?
 スリーオーワンでは誰しも。
 落ちこぼれ、クズ、鬼畜めと、さげすまれ続けた記憶しかない。確かにスリーオーワンに集められた者は実力で生き残った者は一人も居ない。謀略と陰謀、裏切りと奇襲、いかなる汚い手でも使う。魑魅魍魎の集団。それがスリーオーワンだ。
 生き残れるなら、神の血肉を食らう事など何とも思わぬ奴らだ。
 軽蔑の意味を込めて、スリーオーワンの別名をキラージャンキーズと言う。
 エリート達とは全てにおいてその生い立ちが違うのである。
 ユリスがあの修羅場の日々をミナに話すはずも無い。
 ユリスにとって忌まわしい事だらけだろう。しかしロンにとってそれはどうでもよい事。今となっては紀元前の逸話である。
 ミナの唇の上にゆっくりと、ひとさし指を立てて置いた。
 子供に話しかける父親の仕草であった。
 「シー、もう話さない方がいい。傷にさわるから。」
 そう言ってコックピットにミナを潜り込ませてチャップに行き先を告げた。
 「俺はロードスを送り返しておく。ロッキーの事なら心配するな。手荒な事や危害は加えられていない。ロッキーは、りこうで紳士的な奴だからな。奴らが剣を抜く気にはならんだろうよ。うばったのがあいつらだからな、戦う相手を知っている。すぐにロッキーを始末したりもしない。ああ見えてクレイは話の筋を通す奴だ。ただの飼い犬ではない。ゾフィーの言いなりにはならんよ。奪われたのなら、奪い返すまでの事さ。そうだろう。」
 ミナに笑顔が戻った。
 「ありがとう。ロン、でもなぜロードスはあたしと戦ったのかしら?彼は戦いながらもあたしを励ましてくれたりした。彼と戦っていた時『ミナはもっと強いはずだ。相手の力さえ我が物にするんだ!』と、そう言っていた。」