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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 彼らにとっては、目と鼻を突き合わせているほどの距離である。
 最終決戦の時がきていた。
 ロードスはミナの極限強度を試す気だ。
 ミナもそこに勝敗の行方をゆだねた。
 どちらが放った攻撃かは不明であった。
 二人は、閃光に包まれ渦状の爆風が廃墟を天高く吹き抜けた。
 ロードスは9500メートル上空に居た。ミナは無事逃げ切れたのか?
 ロードスの力も既に尽きていた。
 ロードスはそれでもミナを追った。
 戦う本能がそうさせていた。
 ミナは残骸の陰に身を横たえていた。
 もう起き上がることも出来ない。
 ロードスは静かに下りてきて、ミナの前に立った。
 衣類も装着していた武器も、無残にもぎとられていた。
 ロードスは最後に残された武器、ハンドブラスターをミナに向けた。
 彼らにとってはオモチャに過ぎない。
 しかし、今はそれでさえ命取りとなる。
 「そこまでだ。ロードス。」
 ロードスの背後で声がした。ロードスは予期していたようだ。
 ハンドブラスターをしまい、ふり向いた。
 「ヤーーー。久しぶりだな、ロン。まだ生きていたのか?」
 仮想空間は消えて無くなり、現実空間の砂漠に三人はいた。
 ロンの怒りは限界点を通り越して、理性の引き金はとっくに壊れていた。氷のように冷たい口調で言い放った。
 「あいにくとな。こんな形でお前と会うとは思わなかった。昔のよしみだ、楽に死なせてやろう。」
 その時。
 ミナの意識が戻り、かろうじて話すことが出来た。
 消え入りそうなその声だったが、意思の強さだけは伝わった。
 「ロンお願い。その人を撃たないで。あたしの負け。約束は約束よ。だから、しかたないの。その人は悪くないわ。」
 ロンは、ミナの言葉で少し我にかえった。ロンの口調は昔のクラスメイトの時に戻っていた。
 「ロードス。お前は運のいい奴だ。この場に居るのがもしララだったら、問答無用で八つ裂きにされていた所だ。」
 仲の良いクラスメイトだったらしい。
 ロードスは、この期に及んでも憎まれ口を叩いた。武士に情けは無用と言いたいのだ。
 「持つべきは話の分かる、お優しいマヌケなクラスメイトだな、ロン。いつからフヌケになった?ヘドが出るぜ。俺を生かしておいた事を後悔しても手遅れだぞ。俺ならとっくに殺している。だから、お前らはへなちょこスリー・オー・ワンって呼ばれるんだ。」
 同じ悪態を付くにしても言っていいことと悪いことがある。
 「確かにオレたちゃ、へなちょこスリー・オー・ワンだ。スーパーエリートさんよーー。」
 これは、言っていい悪態だった。
 そう言い終ると同時に鈍い音の銃声と共にロードスは膝から崩れ落ち、砂漠の砂にまみれた。
 でも、なかった。
 ロンは怒っている?
 「いやーーーーー。」
 ミナの悲鳴が銃声の後を追った。
 「撃たないでって言ったのにーーー、ロン、ひどいわ。」
 ロンはこれ以上ロードスの減らず口に付き合う気が無かった。
 ロンは自分の上着を脱ぎ丸裸に近いミナに着せて、抱き上げチャップの待つコックピットへと歩いた。
 ロンは、歩きながら、前を見て話した。
 「ミナ、俺がお前の言うことに背いた事があるか?猛獣を運ぶには眠ってもらうにかぎるのさ。ただの麻酔銃だ。すぐに動けるようになる。」
 それを聞いたミナは、ホッとした。
 その瞬間に意識が遠のいていった。
 ミナの限界はとうの昔に超えていた。
 「もう一匹の猛獣も眠ってくれたか?寝ていれば、ただのかわいい娘なのになー。」
 ロンにはミナの寝息が胸に沁みた。
 


 ロンは、こんなにミナの救出が遅れたことを悔いた。ミナを危険にさらしたことはいい。しかし、ここまでボロボロにしてはならなかった。
 ロードスの妨害思念でミナを見失ったのがミスの始まりだった。
 おまけにミナまでそれに同調していたので、お手上げである。
 ミナが気絶してやっと居所が掴めた始末である。
 ミナもこの戦いを望んでいて、邪魔されたくなかった事を示している。
 こんな戦いに命を掛ける価値があると言うのか?
 ロン達にとっては悪夢を見ているような7時間51分であった。
 ミナとロードスにとっては、アッと言う間の至福の出来事であったろう。
 しかし、必死で捜索している者にとっては、永遠のように長い7時間51分であった。
 デジタル空間でのファイトでさえ、こんなに長時間戦ってはいられない。
 しかし、二人は文字通りの肉弾戦で死闘が繰り広げられたのだ。
 正にキチガイざただ。
 二人だけが暗黙の内に交わしたルールがあった。
 それは。
 『いかなる窮地に追い込まれようと、相手を見切り、必要以上のダメージは、与えないこと。戦闘不能になった時点で、速やかにゲームオーバーとすること。』と、言うものだった。
 そして、お互いを全面的に信頼し、ゆだね。かつ、敬う気持ちがなければ成立しない闘いである。
 闘いの為のファイトである。
 ロードスとミナ、この二人であるから、このファイトは成立する。
 どちらかが逃げ出したり、迷いがあったり、相手に不信感を持った時、忌まわしいだけの豚殺場になってしまう。
 殺し合いに違いは無いが、この地は、真の勇者が足を踏み入れることの出来る場所とロードスは考えていた。
 だからこそミナを選んだ。
 他の誰でもないミナを。
 ロードスと言う男、根から戦う為に生まれてきた男らしい。
 初対面で一瞬にしてミナの素性を見抜くとは。
 ただの伊達男ではなかった。
 「やはり牙を隠していたか?良く知っているはずの他所のクラスのクラスメイトだが、ちっとも分かっちゃいなかったようだ。」
 ロンは、何も分かっていなかったことを恥じた。
 ロンにしろ他の誰もが、鼻持ちならない、キザな奴、と言う印象しか持っていなかった。
 しかしそれも偽りの無い、ロードスなのである。
 裏を返せば。ミナが存在して初めてロードスの真価が発揮されるということになる。
 ロードスが初めて真の勇者と認め、死を掛けて戦いを挑んだ。
 奴をそこまで本気にさせ、眠れる力を目覚めさせる事の出来る者はミナ以外には居ないと言うことだ。
 ロードスにとっては今までの戦いは茶番でお茶を濁す程度の不愉快、極まりないものに違いない。
 それは勝っても負けても同じことである。
 後味の悪さに変わりはない。ミナと対峙して剣を交える事で初めて戦いの意味をおぼろげに見出せた。
 それはこの世で最も尊い物に触れた感触だったはずだ。
 ミナはロードスが今まで戦ってきた何万何億の戦士達の誰とも違う。
 唯一にして無二の存在だった。
 ロンは、ミナの持つ力の一端をまた垣間見た気がした。
 そして、ミナの意識が戻った。
 ファイヤーバード内で2時間ほど経過していた。
 それは、応急処置をロンがし終えた時だった。
 ロンは普段通りのおおらかな表情でミナのほっぺにキスをした。